#10 ふたりだけの軍隊(02)
*
「へっくしょん! うー、さみぃ。大丈夫か、くろにゃあ」
うみぃ……。
「よいっしょっと。にーちゃん、しっかりしてくれよ」
コーディには申し訳ないが今、結構ヒマなのだ。僕らは今、天空にそそり立つ塔の壁をエアバイクで昇るという無茶に挑戦中だ。
エアバイクを斜め上に突き刺すような角度になるよう左手のスロットルを噴かす。すると壁に対して斜め上の推力が生まれる。そのままだと壁から離れ落ちてしまうので、背中に取り付いたコーディのジャンプで壁に押しつけるのだ。結果として塔の壁をカエルのようにぴょこぴょこ跳ねて昇っていく、ちょっと間抜けな状態が続いてる。
僕はコーディのジャンプ衝撃に耐えつつ、エアバイクのコントロールを維持するだけ。くろにゃあは頭の上では危ないので僕の懐に収まっている。結局、言い出しっぺのコーディだけが苦労している状態だ。
「しかし、何の反撃もないのが不思議だなぁ。空飛ぶギガントもいるだろうに」
「……にーちゃん。相手は期待を裏切らないみたいだよ」
「……だな」
僕らが目指すその先に、ギルトが立っていた。彼女は塔の壁面に仁王立ちをしていた。まるで重力を無視するように。
「どうなってるんだ、あれ?」
「多分、氷の魔法だね。足の裏を凍らせてくっつけてるんだ」
「ったく。普通そんな体勢で身体を支えられないぞ。でもそれなら……」
ハンドルを右に切る。あまり大きいコース変更はこちらもできない。今は、直接対決を避けるだけで充分だ。まだ距離があるので、充分避けられるはずだ。
「にーちゃん、駄目だ」
ギルトは平気で場所を移動してくる。恐らく力ずくで足の裏を剥がし、即座に強力な氷結魔法で足の裏を再接着。やはり人間業とは思えない。
「しょうがない。強行突破するぞ」
「……でも、にーちゃん。あれギルトだよね。ナツじゃないよね」
「なっ……。あの身体、夏美さんのはずないだろ」
「今やにーちゃんの骨折だって直しちゃうんだぜ。自分の意思で肉体改造だってできるんじゃない? 氷の魔法だって……」
否定しきれない自分がいた。彼女は何だってできてしまう。この世界に来てすぐ炎の魔法だって覚えてしまった。おかげで旅がずいぶん楽になったけど……。
まてよ。
本当にそうだろうか? 彼女は僕と出会う前、サーディアンの人たちに追われていた。それは誤解だったのだけど。でも、彼女は生命の危機を感じていたはず。その時に発現してもおかしくなかったんじゃ。いやいや、彼女はコーディにコツを教わったからと言っていた。いや、彼女はコーディが脅えるほどの能力を持っていた。やればできたんじゃないのか? すると、それまでは彼女がそれを望まなかったから……?
『包丁ないし、そもそも生じゃ危ないしなぁ。火が欲しいよ』
……彼女と冒険を始めた時の僕の台詞だ。もしかして彼女は僕が欲したから火の魔法を覚えた……? そうだ。不自然なんだ、彼女が火の魔法から覚えるのは。彼女の属性から言って水の魔法から発現しなきゃおかしい。思い起こせば、彼女は僕の望むとおり魔法を覚えて言っていると良い。
『だってナツミちゃん、いつだってユージちゃんを見てるんだものっ!』
これはアモの叫びだ。……僕は馬鹿だ。本当に大馬鹿野郎だ。この言葉が今になって胸に突き刺さる。
「大丈夫だ、コーディ。あれはギルトだ。間違いない。……なぜなら彼女は僕を見ていない」
「何言ってんだよ、にーちゃん。あいつは思いっきりこっち睨みつけてるよ」
それに思い出した。それは彼女とのたわいもない会話だ。
『それに夏美さんが強くなっても一向に僕は構わないぜ。ただ……ギルトみたいに筋骨隆々になるのだけは勘弁してくれ』
『……私もあれはないと思う』
足の震えが止まらないのに、顔に笑みが浮かぶ。
「間違いない、夏美さんではないよ。なぜなら、あれは夏美さんが求める力ではないからさ」
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