#10 ふたりだけの軍隊(04)

 塔にぶら下がるコーディの身体を見る。正直なところ、本人が言うよりもダメージが残っている。上を見上げるとリングがハッキリと見える。もう少しで到着できたのに……。リングの穴は、塔と非接触で浮いている状態だ。

 「こうなったらリングが降りてくるまで待つしかあるまい?」

 そう言って僕は眼を開けてコーディの制御権を明け渡した。

 「そんな、無責任な。……って何、袋なんか漁ってるのさ」

 アジトから持ち出した慌てて袋の中が、今の僕の武器のすべてだ。

 「それよりコーディ。剣の上に上がれないか?」

 「おいらだけでは無理。にーちゃん、手伝ってよ」

 「分かった。ちょっと待って……お、あった、これこれ。おい、くろにゃあ、あれ?」

 にあ。

 くろにゃあはいつの間にか僕の頭の上に移動していた。

 「ちょっと、こっちこい」

 僕がひざをポンポンと叩くと、渋々といった感じで移動する。こいつ、絶対オスだな。むんずと首根っこを押さえつけると、袋から取り出したロープを胸に結びつけた。

 んにゃ、にゃ、にゃー。

 もがくくろにゃあ。抵抗むなしく紐付きとなってしまった。

 「にーちゃん、遊んでる場合じゃないよ。もうすぐランペットが戻ってくるよ」

 「ああ、でも夏美さんを救出に行くんだぜ。きっとこれが役に立つ」

 「よく分からないなぁ……。あ、ついに来たよ」

 「よし、コーディ。制御権を貰うぞ」

 眼を閉じると足下から急激に上昇してくる黒い天使が見えた。

 「さて、あまりに不利すぎて勝てる気がしないな」

 「にーちゃん、ここから落ちたらおいらだって無事ではいられないぞ」

 「あははは! そこにいたのかっ、コーディオン! まさかふたりまとめて契約してるとは思わなかったぞ」

 ギルトの笑い声が響く。戦いはただでさえ機動力の勝る方が有利だ。しかも、コーディは片手でぶら下がっている状態。僕は魔法が使えない無能。

 黒い天使の鋭い爪がコーディを襲う。僕は身体全体を跳ね上げてその爪を蹴り上げる。天使は反転して再度、襲いかかるが同様に払いのける。

 「……魔法は使ってこないのか?」

 「流石に自分の住む塔を傷つけたくはないんじゃない?」

 「いや、撃ってくるぞ!」

 天使が広げた両手の間に、巨大な氷球が生まれ、成長を続けている。

 「一気にカタをつけるつもりか。アレに触れたらどうなる?」

 「たぶん、おいらたちは凍って動けなくなるね。ナツの魔法があればなんとかなるけど」

 「やっぱしな。ちょっと洒落にならんサイズになってきたな」

 僕は塔に突き刺さっている剣を両手で持ち、浮いた両足を塔に押し当て膝を大きく折り曲げ、弓なりの体勢になった。

 「来るぞ! にーちゃん!」

 コーディを遙かに超えるサイズの氷球が天使から放たれた。

 「ってい!」

 僕は力を溜めた膝を伸ばし、塔からジャンプをした。グンと下半身が塔から離れようとするが、強く掴んだ両手がそれを許さない。掴んだ剣を中心にして半回転上昇し、身体が上下逆さまになる。ちょうど垂直にバク転しているような感じだ。その勢いで剣を抜こうとする。

 「くっ」

 思ったよりも剣が深く刺さっている。大きく舞ったマントが邪魔をする。抜けた! 抜けることは抜けたが、身体のバランスが崩れてしまう。

 「うわぁぁぁぁー」

 コーディの身体は重力に従い落下し始めた。

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