#10 ふたりだけの軍隊(05)
「まずいっ!」
コーディの身体を海老反らせ、反動を付けて剣を振る。なんとか剣が壁に刺さり落下を食い止めることができた。
ピシッ。
同時にコーディの真上に氷球が命中した。一瞬で広い範囲が凍り付いた。結局、元いた位置よりも低い位置になってしまったが、悪運が強いと言うべきか。元いた場所も、一度上に上がった場所も氷のエリアの中である。
「来るぞ、にーちゃん! 今度は体当たりだ!」
間髪を置かず黒い天使はこちらに突撃してくる。こちらは背を向けたままだ。命中した氷球から急激に冷気が広がっていき、指先の動きが鈍くなっていく。
「そうだ!」
僕はもう一度、塔を強く蹴り、剣を軸に半回転上に昇る。コーディの身体は上下逆さまのまま、弓なりになった。足の裏はギルトの撃った氷の上。たちまち足元が凍っていく。
「何やってんだ! にーちゃん! 腹を見せたまま固まるなんて狙ってくれと言わんばかりじゃないか!」
「……まぁ、黙って見てろ」
僕の視線は青い空に向いていた。生命の危機だというのに笑みが漏れる。
ああ……そこにいたんだ……。
「にーちゃん! ランペットがっ!」
にゃにゃにゃにゃにゃー。
慌てるコーディとくろにゃあ。そう言えば、いつの間に足の震えが止まったんだろう。僕は剣を持つ手に力を入れて、その時を待つ。
「今だ!」
天使の爪が襲いかかる時、僕は全身に力を込めて一気に大剣を引き抜く。強力な氷の魔法で固定された足はビクともしない。そのまま足を軸にして剣を振り上げる。半円を描いた剣は下から上にランペットを切りつける。予想外の動きと突入のスピードが相まって、見事にヒット! ……したかに思えたが……。
「……浅かったか」
ランペットは大きなダメージを受けたが、致命傷とはいかなかった。一旦距離を置き、体勢を立て直すようだ。
「惜しい! あと少しだったのに」
「いや、十分だよ。とりあえずギルトの真似して上に昇るぞ」
大剣を納め、コーディの足を力ずくで引き離し、上に運ぶ。すると上手い具合に足が凍り付き固定されるのだ。そして反対側の足を……。ギルトのようにスムースではないが、少しずつ上に昇れている。まるで粘着テープの上をぎこちなく歩いているような感じだ。
「今度ばかりはギルトの強い魔力に感謝だな」
「……そうだね。リミッターを外していると考えて、ランペットのマジックアイテムとしての能力はおいらの半分くらいかな?」
コーディにしてはややぶっきらぼうな言い方だ。
「どうかしたのか、機嫌悪いな」
「……搭乗型の人造ギガントだからね」
そう言ったきり、口をつぐんでしまった。そう言えば、不機嫌なコーディというのはめずらしい。
……いや、待てよ。ミドの街にあったルガンも搭乗型人造ギガントだ。あれには何も言っていなかった。つまり“マジックアイテム”であることが問題なのか? 確かに一般的なギガントは自身で魔法を使うことが普通で、ルガンもその延長線にある。むしろ乗り手の能力に依存するコーディ型の方が特殊だ。似ているのはランペットしか知らない……。
コーディには僕に話してくれない“何か”があるのか?
僕はふとよぎった不安を振り払うように、上に進み続ける。いいじゃないか、コーディに秘密のひとつやふたつ位あったって。だからといって僕のコーディに対する信頼は少しも揺らがない。
「風が止んだ……」
ふと気付くと上空特有の強い風が止んでいた。
そしてコーディとくろにゃあが同時に声を出した。
「に、にーちゃん! あれ」
にゃ? にゃにゃにゃあ、にゃあにゃー!
コーディも、くろにゃあも気付いたようだ。
僕はとっくに気付いていたよ。
さっきからずっと視線を感じてた。そして、それは青い空に吸い込まれるように飛んでいく。まるで何かから解放されたかのように。
「あれ、ナツだよね。間違いないよね!」
興奮からコーディの声が高くなる。
空を見上げ、僕は言った。
「ああ、あれは夏美さんだ。……来るぞ、コーディ!」
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