#01 無能の少年(04)

 「……な、なぜ?」

 「なぜって? 当然だろ? 友達なら名前で呼び合うものさ」

 「ともだ……ち?」

 「そう、僕は君に感謝してる。お礼がしたいんだけど、今何が起きているか分からない。だから、友達になって色々教えてほしいんだ」

 正直、一方的な言い分だと思いつつも、素直に本音を言ってみた。そもそも駆け引きするにも材料がなさ過ぎるし。

 「…………コーディオン・テン・ツバイ」

 ためらいながら、彼は言った。

 「それが君の名前かい? でも、ちょっと長いな。コーディと呼んで良いかい?」

 その言葉に彼はさらに動揺した。

 「にげ、ないのか?」

 「どうして? 君は良い奴じゃないか?」

 これまでのやりとりでいくつかのことが分かってきた。

 まず、彼は僕という存在に驚いていない。つまりここは人間がいる世界である。そして、彼自身は人間に対して敵意を持っていない。逆に逃げられるなどのトラブルにあった可能性がある。もしかすると僕と同じように彼も迷い人なのかもしれない。

 次に彼は名前に何らかのコンプレックスを持っているようだ。名前を告げたとき、僕がネガティブな反応をすると思っていた節がある。これは後々トラブルの元になるかもしれない。そう考えると、彼のボロボロの身体が気にかかる。

 そして、これが最も重要なのだが、彼は誠実で信用できそうなこと。穴にはまった僕を救出してくれたし、名前を聞かれても(おそらく)正直に答えてくれた。そもそも彼には僕を救出するメリットはほぼないはずだ。

 「……わかた。それでいい。コーディ、きにった」

 コーディオン、いやコーディは僕の顔を見つめ、そう言った。正直ホッとした。何が起きているか分からない現状に、仲間となり得る相手がいるのは大変ありがたい。

 そして、コーディは言葉を続けた。

 「ただ、ゆじちゃ。ことば、へた」

 「はぁ」

 僕は全身の力が抜けた。流石にお前にだけは言われたくないわ。

 「ちょと、まて」

 そう言うと、コーディは僕を乗せたまま左手を胸の前に移動した。

 ボシュ。

 コーディの胸元が縦に割れたかと思うと、観音開きのように開いた。

 「えっ?」

 彼の身体の中には広い空間があった。それは、彼の身体よりも大きく感じられるほどで。その中央には椅子が一脚あり、その周りには大量の機械がぎっしりと組み込まれ、乱雑に光を放っていた。

 「コーディ……君は……」

 僕がその空間に足を踏み入れようとした瞬間、突然若い声が響く。

 「しっかり受け止めてよっ!」

 その空間の中にあった一つの光が、突然僕の方をめがけ飛んできた。

 「うわっ!」

 僕は後ろにひっくり返りそうになりながら、その黄色い光を受け止める。その瞬間、コーディの胸は閉じてしまった。その胸には一切の溝といった類いの物はなく、扉があった痕跡は一切消え去っていた。

 「コーディ?」

 彼は突然黙り込んでしまった。返事は返ってこない。ややすると、僕の手が光り始めた。慌てて手を開くとまぶしいほどの光が広がった。やがて光は輝きを押さえ、その姿を現し始めた。彼の胸から飛び込んできたのは手のひらに納まる程度の宝石であった。今、僕の手のひらの上でクルクルと回りながら、柔らかな黄色い光を放っている。

 「……コーディ? 君はもしかして……ロボット、機械人形なのかい?」

 それならこの鎧のような身体も納得がいく。僕は顔を見上げながら問いかける。

 「うーん。確かにそう呼ぶ人もいるみたいだけどね。正確にいうとちょっと違うかな」

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