#06 ホーム(07)
「はい、はい、はい! みんなとっとと持ち場にもどりな。この娘が安全であることは私とくろにゃあが保証するよ!」
パンパンパンと手を叩き、この場の終了をつげる係の女性。不満を言いながらも指示に従う兵士たち。しかし双方の表情は笑顔だ。
「自己紹介がまだだったな。俺はオジー」
門番の人が僕に握手を求めてきた。握りかえしながら僕も名前を名乗った。
「歓迎するよ」
そう言いながら続けて夏美さんの身体を引き上げ握手をした。まだ夏美さんは涙目だ。
「すまない。さすがに、あいつにそっくりなあんたをそのまま通す訳にいかないし、周りも納得しないからな」
夏美さんは黙ってうなずき、自分の名前を名乗った。
「これを着なさい。特にあんたは目立ちすぎるからね」
係の女性は夏美さんに頭から被る型のマントを投げて寄こした。夏美さんはそれを受け取ると僕の後ろにさっと隠れる。
「ははは、嫌われちゃったかな? まぁいいや。私はアイハ。私とオジーであんたたちの世話を担当することになった。よろしく!」
「……え」
背中越しに夏美さんの動揺が伝わってくる。 「じゃあ、ザドさんの所に行こうか」
アイハさんは全く気にかけることもなく、先頭を切って歩き始めた。僕たちはようやっとミドの街に入ることができた。
外での騒動は伝わっていないらしく、僕らに注目が集まることはなかった。人通りも少なく、夜を待ったのは正解だったようだ。電気はあるらしく、いくつかの家で明かりがついているのが確認できる。しかし街頭のようなものはなく、全体的に暗い。
「しっかし、ナツミ。あんた何者だい? いい身体してるよね」
突然、アイハさんが話を戻す。夏美さんはギクッと反応した後、アイハさんを涙目でにらみ返す。しかし当の本人はどこ吹く風で、夏美さんに触れた右手のにおいを嗅ぎ始めた。
「あ、いや。華奢なんだけど、ものすごく鍛えられた筋肉してるんだよね、あんた。それは長い時間をかけてじっくりと育てた物だわ。ギルトのマッチョボディから数日でそんな身体にするのは不可能よ。胸も含めてね」
「手のにおい嗅ぎながら人の身体の感想言うのやめてください!」
「いやぁ、もうちょっと知りたいなぁ、君のことぉ」
「助けてよ、勇司くん!」
僕の後ろに隠れようとする夏美さん。そんな彼女をアモがかばう。
「ナツミちゃんをいじめちゃ駄目!」
「ああ、こーゆー時頼りになるのはやっぱりアモちゃんよねぇ」
アモにしがみつく夏美さんを見て、オジーさんが歩み寄る。
「大丈夫だよ、アモ。おい、いい加減にしろよ、アイハ」
アモの頭をくしゃくしゃに撫でながら抗議するオジーさん。アイハさんは一瞬むっとした表情を見せつつ、プイと向こうを向いて歩き出した。そして、ぶっきらぼうに言った。
「ほら、ここがザドさんの家よ」
「ええ! これが?」
ひときわ大きなその家は、上に横に自由気ままに増改築をしたデタラメな建物だった。下より上の階の方が床面積が広く、倒れないのが不思議なくらいだった。
「ああ、こっちだこっち」
正面玄関と思わしき場所ではなく、横の階段にアイハさんは向かった。階段に近づくと、それは自動的に動き出した。それはエスカレータだったのだ。
「な……何でこんな物が……」
「ねぇねぇ、勇司くん。この世界ってコーディみたいな物もあるんだから、エスカレーター位あってもおかしくないよ……ね?」
夏美さんも頭の中が混乱し始めたようだ。そうこうしている間にザドさんがいるという部屋に着いた。ノックもせずに入ったアイハさんが叫ぶ。
「おーい、ザドさん。お客さん連れてきたわよ。いるんでしょ?」
その部屋は大量の本が積まれていた。その奥にザドさんはいるらしい。
「おお、待ちかねたぞい。ちょっと待っておれ」
本の山に、今まで読んでいたであろう本が積み重ねられるが、彼の姿は見えない。
「ほ、ほ、ほ、よく来たな」
その声の主に気付いた夏美さんの、今日一番の悲鳴が部屋にこだました。
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