#06 ホーム(08)
「キャー! ト、ト、トカゲ人間っ!」
トカゲ人間? それは夏美さんがこの世界に来て真っ先に遭遇した連中の事だ。ただ、僕にはその姿が見えない。左右をキョロキョロと見渡していると足下から声がする。
「ここじゃ、ここじゃ、馬鹿者が」
「えっ?」
そこには床を四本足で這う、まさしくトカゲがいた。
「失礼な奴じゃな」
むくりと起き上がり後ろ足だけで立つそれは1.4メートルくらいはあった。その姿を見て、夏美さんは僕の後ろに完全に隠れた。
「わーい、ザドのおじちゃん。お久しぶりぃ!」
アモが飛びつくと、トカゲは眼を細めて彼女の髪を撫でた。
「おぉアモよ、すまなかったな。儂がパトスにもっと早く情報を伝えていれば」
「ううん、お父さんもお母さんも、村のみんなも覚悟してたもん。でもナツミちゃんと会えた。だから、だから……ね」
涙声になり、言葉が継げなくなるアモ。そんなアモをトカゲは頭をやさしく撫で続けた。そんな彼らを見て、夏美さんの震えが止まった。トカゲはこちらを見て、自己紹介を始めた。
「さて、〝水の領域〟の諸君。ようこそ。儂がザドじゃ。なるほどなぁ……。ん、そうじゃ、アイハ。リドをここに連れてきてくれるかな?」
アイハさんは黙ってうなずくと部屋を出て行った。
「大変失礼しました。僕らは……」
僕が自己紹介しようとすると、ザドさんはそれを遮った。
「いや、それには及ばん。くろにゃあ、こっちにおいで」
にゃあー。
くろにゃあとアモが入れ替わった。
にあ、にあ、にゃあー、にゃ。にゃあー。
くろにゃあが喋るのをザドさんはニコニコしながら頷いている。僕の後ろにいる夏美さんもようやく緊張が解けたようだ。
「ふふ。あの人、まるでくろにゃあの言葉が分かるみたいね」
とことこと夏美さんに近づくアモが答える。
「うん。くろにゃあは人間の言葉を話せないけど分かるよ」
「へぇ、そうなんだ……って、おい! あいつ僕たちの言葉分かるのか?」
つい僕の声が大きくなる。
「そうだよ。それでいろんな所に行って“ちょうほうかつどう”するのが仕事なんだよ」
僕は頭を抱えた。
「うわぁ、ぬかった。じゃあ、パトルさんの家に泊まった時、部屋にくろにゃあがいたのは僕らを監視してたのか!」
考えてみれば当然だ。素性の知れない者を簡単に受け入れると考える方が甘い。逆に言えば、あの時の会話がパトルさんたちに伝わって僕たちは信用された、というか手を差し伸べる必要があると考えた訳か。
「アモはくろにゃあの言葉は分かるのかい?」
「うん。あと、お母さんも分かるよ」
アモの言葉に動揺を隠せないのが夏美さんだ。完全に僕の横で固まっている。
「うそ……うそでしょ? くろにゃあって人の言葉分かるの? 駄目駄目駄目! あれを喋っちゃだめぇ!」
あぁ、そう言えば夏美さんはストレス解消のため、くろにゃあに色々と話してたなぁ。取り乱す夏美さんをくろにゃあは一瞥するとひとこと、にゃあと鳴いた。夏美さんは再び固まってしまった。
なるほど。この街の人たちのくろにゃあに対する態度が不思議だったけど謎が解けた。恐らく街の人たちの様々な秘密を握っているため誰もくろにゃあには逆らえないし、逆に信用もされているのだ。僕は妙に合点がいった。
「ごくろうだったな、くろにゃあ」
にゃあ。
くろにゃあはザドさんから離れ、アモの腕の中に収まった。そんなくろにゃあに夏美さんは懇願する。
「お願い! あれだけは言わないで。お願いだから」
夏美さんとくろにゃあの力関係が完全に逆転してる。なんだか分からないけど、よっぽど聞かれたらまずいことを話したのか? 当のくろにゃあはプイっと横向いたまま何も言わない。
「大体の事情は分かった。大丈夫じゃよ、儂もくろにゃあも口は堅い方じゃ。それよりも主ら、聞きたいことがあるんじゃないのか?」
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