#07 交わる世界(05)
「でも、納得いかないのよね。私と勇司くんは別に大地震とかに遭っていないですよ。領域ジャンプできるエネルギーなんか、とても、とても」
夏美さんと僕は眼を合わせると互いにうなずいた。
「……そこなんだよなぁ。大地震ほどのエネルギーは必須ではないと思うんだが……お前たちのは違う気がするんだ。何かに押し出されるような、引っ張られるような……」
そこで話題が途切れたので、夏美さんが小さく手を挙げた。
「あの……私って本当にこの世界の生まれなんですか? どうやって“水の領域”へ移動したんでしょう」
「それには儂が答えよう」
僕たちの会話を黙って聞いていたザドさんが起ち上がった。
「昨日逢ったリド、覚えておるじゃろ? あいつから聞いた話じゃが……。お前さんたちは“水の領域”の者たちが住む街で産まれた双子でな。リドもそこに身を寄せておった。近くで“神”の遺跡を発掘中で、ご両親やリドはそれを生業としていたのじゃ。リドとお前さんのご両親は仲が良く、お前さんたちのお守りもよくしててな。ある日、遺跡が暴走しまい、お前さんたち一家は消失してしまったのじゃ。たまたまギルトはザドがお守りをしていて助かったのじゃ。ただサーディアンが引き取る訳にもいかず、そこで別れ離れになったという話じゃ」
「じゃあ、私は……」
「本来の世界に戻ったんじゃろうな」
夏美さんは自分のルーツが分かり、涙を浮かべている。
「もっと、お話を聞かせもらえませんか?」
「詳しくはリドを交えて話をしたいんじゃが、あやつは今、多忙でな。一週間ほど戻らん」
夏美さんはコクリと頷くが、質問は止まらない。仕方ないだろう。これまで抱えてきた疑問が一気に氷解しそうなのだから。
「もうひとつ良いですか? ギルトもリドさんたちも、私が来るのを分かっていたような対応してたじゃないですか。あれは?」
「……今は詳しく話せんが、いわゆる予言書みたいな物があるのじゃ。さっきの、時空を移動する話じゃが、どうも無生物の物が過去にジャンプしてたどり着くことがあるんじゃよ。どうも無生物の物は時空に弾かれることはないようでな……」
そう言ってザドさんは大量に積まれた書籍の中から二冊の本を持ってきた。
「これを見てくれ」
それは全く同じ本だった。ザドさんが上下に並べ、1ページずつ同時にめくっていく。最初は意味が分からなかったが、その内、その異常さが理解できてきた。
「……これって?」
僕と夏美さんは同時に声を出した。
「そう、全く同じ本なのじゃよ。ほれ、シミも、破れ方も、持つ主の書き込みもほぼ同じじゃ。ただ、こちらの方が古いらしく、痛みがより激しいがな」
「そんなことってあり得るんですか?」
「眼で見たこと、確かめたことだけが真実じゃよ、ナツミ。世界はな、儂やお前たちの頭で考えただけで理解できるほどつまらなくはないのじゃよ。儂はもっともっと色々な事が知りたいんじゃ」
サーディアンの年齢は分からないけれど、かなりの年長者と思われるザドさんの瞳は少年のように輝いていた。こういった感情は種族が違っていても分かるのが面白い。ただ、どうしても疑問が晴れない。
「ザドさん。色々と僕たちに話してくれますが、良いんですか? 出会ったばかりだと言うのに」
「ほっほっほ。お前さんたちのことは、くろにゃあが見張っててくれたからのう。生きるのに必死で、他に何も考えられる状況になかったようだからのう。あまりにこの世界に無知で見てる方がハラハラしたと言っておったぞ」
にゃあ。
タイミング良く鳴く子猫に、僕と夏美さんは苦笑した。
「おっと、そうじゃナツミ。お前さんの〝社会科のノート〟ってのを見せ……」
ザドさんの言葉が終わるのを待たず、夏美さんが突然叫ぶ。
「くろにゃあ! あんた、しゃべったわね。あれほど内緒って言ったのに!」
捕まえようとするが、くろにゃあは素早く夏美さんの手をすり抜ける。
「こら! ちょっと待ちなさいよ!」
に、にやぁっぁぁぁぁぁ。
本気で子猫を追い回す夏美さんを、僕たちは腹を抱えて笑った。
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