#07 交わる世界(04)
僕は頭を抱えた。僕より理解が進んでいると思われる夏美さんが話を続ける。
「確か私たち以外にも沢山の人たちがいると思うんですけど、世界ってそんなに重なっているんですか?」
「うん、良い疑問だ。まず領域だが、今のところ20ほど確認されている。そしてそこから来た人たちは、領域ごとに集まって生活していることも多くてな、お前たちが寄ったパトルさんの村もそのひとつだ。そうした集落は他者を受け入れたがらない傾向がある。お前たちはパトルさんに出会ってラッキーだったよ」
そういえば……パトルさんの村で僕たちは他の村人から冷たい視線を向けられていたのを思いだした。ゴローさんは話を続ける。
「このミドの街は複数の世界の住人が集まる比較的珍しい街なんだ」
「いわば〝寄せ集めの世界〟の〝寄せ集めの住人〟って訳ですね」
「そうだ。色々な世界の知識が集まっているので、かなり研究が進んでいると言える街だ。それゆえ敵もいてな。結局、城壁を作って排他的になっちまった」
敵……ギルトたちのことだろう。その言葉が出てきた時、夏美さんの表情が一瞬曇った。ゴローさんはお構いなしに話を続ける。
「で、何でこの世界が〝寄せ集めの世界〟と呼ばれているかだが……」
ゴローさんは先ほど書いた正弦波を消し、黒板を目一杯使ったサイズの正弦波を書いた。
「これがこの世界。そしてこれが俺たちの世界、“水の領域”だ」
今度は圧倒的に小さな正弦波を書いた。
「ずいぶん小さいんですね」
夏美さんの言葉にゴローさんはうなずく。
「ああ。そしてこれが他の世界、たとえばザド先生の世界はこれ、アモの世界はこれ、くろにゃあの世界はこれ……」
同じように正弦波を書いていくが、どれもサイズは小さい。そしてそれらは重なることなく平行に並んだ。
「! もしかして、世界移動って〝寄せ集めの世界〟と別の世界の間でしかできないんですか?」
ゴローさんは夏美さんをチョークで指さした。
「正解! 俺たちの世界から、アモの世界に直接移動することはできない。なぜなら“寄せ集めの世界”以外の領域はどことも交差していない。移動できるのは水平だけだから、同一世界内か、もしくはどこかの世界と“寄せ集めの世界”の間でしかジャンプはできない。だから、俺たちがアモの世界に行くには一度〝寄せ集めの世界〟に移動して、そこからタイミングを計ってアモの世界にジャンプすることになる」
話が難しいのか、アモは眠りに入っていた。夏美さんは話を続けた。
「話は戻りますが、移動は水平にしかできないってことは、方向は問わないんですか?」
「ああ、少なくとも現時点ではそう考えられている。つまり、水平であれば過去でも未来へもジャンプできる、理論的にはな」
「! と、いうことは、タイミングが合えば、同一世界へのタイプジャンプもできるんじゃないですか?」
「そうだ! 実は俺たちのいた世界でも、かなり少ない頻度ではあるがタイムジャンプは発生していたようなんだ。ただ、過去に戻るとSF小説とかでよくある〝タイムパラドックス〟が発生する。同一時空に同一人物が存在できないという奴だな。つまり、過去に時間移動する時にその時空から弾かれてしまう」
「あ、じゃあ同一世界でのタイムジャンプが成立するのは事実上、未来方向のみで、短時間のみってことですか」
「ああ。あと領域ジャンプは莫大なエネルギーが必要だから、波が交差するタイミングで行うのが好ましいんだ。線の長さがその世界で過ぎる時間。交差から次の交差までの長さは圧倒的に“寄せ集めの世界”の方が長い。これで時間差が生まれる。しかも一定の長さではない。これが俺とお前らに発生した時間差の理由という考えられている」
「交差するタイミング以外でもジャンプはできるんですよね?」
「さっきも言ったがジャンプには莫大なエネルギーが必要だ。移動距離が長いと力尽きて“領域の狭間”の迷い子となると考えられているんだ。成功確率は格段に下がるだろうな」
「そうすると、ザドさんが昨日言っていた“神”と呼ばれる世代が創ったとされる“領域を渡る船”はもの凄いエネルギーが必要という訳ですね」
「ああ、もし存在するのであればな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます