#02 水の少女(04)

 そして私たちは情報交換することにした。

 どうやら互いに別世界に飛ばされ、他に誰とも会っていないこと。そして飛ばされた時間は恐らく同じ。私は朝のランニング中、彼は野球部の朝練に向かう途中で飛ばされたらしいく、ほぼ近くにいたことが確認できた。実は私は飛ばされる瞬間、彼を見かけていたのだけど、彼は私に気づいていなかった。それだけの違いだ。

 そして谷川くんからこの世界で体験したことを教えてもらった。私たちが今いるのはコーディというロボットの中。本体は彼が胸に掛けているペンダントであること。そして、あの不思議なジャンプはコーディの力によるものということを。

 「ふふ、本当にありがとう。コーディ。私は夏美、清川 夏美よ」

 私がコーディに向かって話しかけると、宝石である彼が赤くなり、谷川くんの前でピョンピョン跳ね始めた。

 「えへへ、どういたしまして。ナツミはちょっと長いな。ナツでいいかい?」

 「おいおい、別に長くはないだろ?」

 もうコーディと谷川くんはいいコンビになっているみたい。

 「ふふ、ナツでいいわよ。よろしくね、コーディ」

 宝石と会話できるなんて、まったくここは不思議な世界だ。

 続けて、私の出来事を話す番になった。

 この世界に飛ばされ、トカゲ人間に追われ続けていたこと。ほぼ三日、逃げ回っていたこと。アイツらの注意が上に向かないことから、ひたすら上に、上に逃げていたこと。そして追い詰められ、崖から落ちたところを谷川くんに救われたことを話した。

 「あ、その時の悲鳴をにーちゃんが聞きつけて、救出劇となったんだぜ。見せたかったなぁ、あの時のにーちゃん」

 「うるせぇ、黙ってろ」

 話は尽きないけれど、今日は食事にして寝ることにした。よほど私の疲れ方がひどかったのだろう。

 「ちょっと待ってて、清井さん」

 谷川くんが外から持ってきた袋を開けると、中にはたくさんの果実が入っていた。それは私が昨日食べた物と同じだった。

 「なにしろ包丁はない、火も使えないとくると、果実くらいしか食べられる物がなくてね。でも、美味いんだぜ、この実」

 ニッコリ笑って差し出す彼に、まさか味が無いなどとは言えずに受け取った。

 カシュ!

 いい音を立てて、彼が果実を口にした。

 「とにかく、俺たちは生き残るんだ。生きのこって必ず帰る。そのためには何だってしてやる」

 ためらっている私に彼が催促してきた。確かに今は何でも良いから胃に入れることが重要だ。私は眼をつぶって果実を口にした。

 カシュ!

 「え? 美味しい」

 信じられないことにその果実はとても甘かった。そしてその甘さが身体の疲れを取り去ってくれるようだった。

 「だろ?」

 「だって、昨日食べた時は全然味がしなかったのに……」

 すると、コーディが口を挟んできた。

 「それは、ナツがいた所あたりから採ってきた実だよ。この辺で採れる食べ物としては一番栄養価が高いんだ」

 私は信じられずに、また口にした。やはり美味しい。

 すると、谷川くんが真面目な顔で言った。

 「もしかすると清井さん、この世界に来たストレスで味が分からなくなっていたんじゃないかな?」

 確かに、さっき谷川くんに飲ませてもらった水はこれまでになく美味しかった。私の味覚がおかしくなっていたというのは正しい指摘かもしれない。もう一口、果実を食べると自然と涙が流れてきた。

 「そうか……、大変だったな。よく頑張ったな」

 ポンと彼に頭を叩かれた時、私がこらえていた何かが一気に崩壊したようだった。恥も外聞もなく、思いっきり泣いた。大声で泣いた。

 でも……私は今、生きている、生きているんだ!

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