#05 白銀のコーディオン(11)

 「わあぁぁぁぁぁーーーー」

 アモちゃんの叫びは私の心を砕いた。精神の集中ができなくなり、ファイアーボールは霧散してしまった。

 「へっ、アタイの身体に傷つけやがって。いい気味だ」

 粉々に砕け散ったパトルさんに唾を吐き捨てるギルト。私は、泣き叫ぶアモちゃんをただ抱きしめることしかできない。

 私たちを見下ろすギルトの元に蟻人間たちが集まってきた。ギルトが腕を振ると、蟻人間たちが一斉に動き、私たちを円形に囲み、武器を向けた。そして一匹の蟻人間がアモちゃんを強引に引き離した。私はすでに刃向かう気力を失っていた。そして蟻人間が私に手をかけた瞬間、空が暗くなった。

 「えっ?」

 最大の乱入者の登場だ。それは、巨大なマントを翻し、宙に舞う白銀の身体を私たちの近くに落下させた。

 ズーーーーーン。

 「ナツ! 大丈夫か?」

 「コーディ!」

 「遅くなってごめん」

 コーディは、周りの蟻人間を振り払い、私を守るように膝をついた。

 「コーディ! アモちゃんが捕まってるの!」

 コーディは、いや勇司くんはこくりと頷くと両手を組みドンと地面について、アモちゃんを捕まえた蟻人間たちの逃げ道を奪った。

 すると、横から黒い影が飛び出し、アモちゃんを捕らえていた蟻人間の顔に飛びかかった。

 「くろにゃあ!」

 蟻人間が怯む隙にアモちゃんが駆け出す。私も駆け寄り彼女を抱きしめた。

 「ごめんね、ごめんね」

 「ナツミちゃーん」

 うにゃー。

 くろにゃあが、早くこっちに来いと言わんばかりに声を上げる。コーディ襲撃時に崩れた包囲網の穴を縫って、私たちは一件の家に駆け込む。くろにゃあの行く先には隠し通路があった。私たちがそこに入り込むと、入り口であった家が崩れ落ちた。コーディが戦うふりをして塞いだのだ。これで追っ手の心配はなくなった。


 長いトンネルを抜けるとそこは川の近くだった。くろにゃあの導くまま、私たちは移動をした。その間、私も、アモちゃんも一言も発しなかった。やがて人気のない洞窟に導かれると、私たちはそこで座り込む。

 にあー。

 ひと言鳴くと、くろにゃあは走り去っていった。私はただ、呆然と黒い影が小さくなるのを見つめていた。

 あまりにも色々あった日だった。真夜中に家を出て、戦いがあって、もう周りは日が暮れ始めている。真っ赤な夕陽が私たちの頬を染める頃、アモちゃんがつぶやいた。

 「……ねえ、お父さんとお母さんはどうなったの?」

 それはとても小さな声だった。でも心臓が止まるかと思った。辛い質問だ。でも、私には答える義務がある。

 「……パトルさんも、マカロさんも、私たちを守るため……お亡くなりになられたの……」

 小さな肩がビクリと動いたが、それだけだった。

 「そうか、そうなんだ……」

 気丈に答えるアモちゃんの瞳からは大量の涙が流れている。

 私は……私は何もできなかった。魔力が増した今なら何とかできると思っていた。でも、思い上がりだった。私は、私の顔をした悪魔に手も足も出せない弱い存在だった。数日間だったけど両親のように接してくれたパトルさん、マカロさん。本来、お礼を言うべき所で感情的になり飛び出してしまったのは私だ。勇司くんは後で言えば良いと言ってくれたけど……それは絶対に叶わない話となってしまった。アモちゃんに恨まれても仕方ない。私はまだ彼女にかけるべき言葉が見つけられずにいた。

 「おーーーーい!」

 夕陽の中、くろにゃあに連れられて大きく手を振る勇司くんの姿が現れた。

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