#06 ホーム(01)

  *

 日も暮れたので、僕たちはここで夜を明かすことにした。簡単な食事を済ませると、アモは夏美さんの膝で眠ってしまった。ようやく今日の出来事について話ができる。

 再会した時の表情から覚悟はしていたが、想像以上にショッキングな出来事だったようだ。なにより目の前で両親を殺されたアモの心情は計り知れない。

 「……そうか、大変だったな。君をひとりで行かせたのは僕の判断ミス。すまなかった」

 「ううん、そんなことない。それに本当に大変なのはアモちゃん。それでもずっと泣くのを我慢してたの。本当は私が励まさないといけないのに、逆だった。私は自分の力不足を嫌と言うほど認識させられた。今のままじゃ……、あのギルトに勝てない」

 握り拳をじっと見つめる夏美さん。これほど落ち込む彼女を見るのは初めてだ。それはそうだろう。思いもかけず見つかった肉親は平気で人の命を殺める人物なのだから。

 「あいつらの目的は分かったのかい?」

 「私はついでで見つかったみたい。『ギガントに任せっきり』って言ってたから、コーディを捕らえるつもりだったんだと思う。ギガントってのがルネットとかのことだとしたら」

 「うーん。そういえば村の人たちは見かけなかったけど?」

 「避難した……と思う。パトルさん、私たちを逃がす前にそんなことを言ってた」

 言ってたか? 僕にはそんな記憶ないけれど……。

 にゃあー。

 僕たちの話を聞いていたのか、アモの足下で丸まっていたくろにゃあが一声鳴いた。

 「ははは。今日はご苦労だったな、くろにゃあ。本当に助かったよ」

 「凄いの、この子。まるで忍者みたいにひっそりと潜んでチャンスがあれば一気に戦うの。私なんかよりよっぽど役に立って……た」

 「辛いけど、今日の反省材料だ」

 「……そうだね」

 「おいらからいいかい? にーちゃんは初めてにしては上手くおいらを操っていたと思う。でも、剣技がメチャクチャ。もう少し練習してくれよ」

 「痛いとこつくな、コーディ。でも師匠となる人物がいないとどうしょうもないよ。それより魔法はどうだ?」

 「それは予想以上。ナツとにーちゃんのコンビネーションも悪くない。逆に言うと、ナツがいなくなると大幅な戦力ダウンになるし、ナツの集中が切れても駄目。にーちゃんだけだと接近戦に持ち込まないといけないから辛いなぁ」

 「そうね、もっともっと強くならないと、私。心も身体も」

 ちょっと僕は話題をずらしてみる。

 「そういえばギルト……だっけ? 彼女、もの凄い身体してたな。とても女とは思えない」

 「凄いというより、異常ね。筋肉の付き方といい、胸の大きさといい、普通はあんなにはならない。私よりも年下らしいし、薬か魔法で作った身体じゃないかしら?」

 「おいらには年下というより、年上に見えたけどな。それに肉体を変化させる魔法なんて聞いたことがないよ、ナツ」

 それを聞いて僕が割り込む。

 「じゃあ、あの身体はドーピングで作った身体って訳か。卑怯だな」

 「……薬で筋肉を作るというのは珍しいことじゃないのよ。というか、私たちの世界でも普通に治療行為として行われていることでもあるの。ただ、過剰な摂取は身体に悪影響を与えるからスポーツ界では制限されているだけ。そうか、魔法のドーピングはありえな……」

 「どうした? 夏美さん」

 「え? ううん、何でもない。もう寝ましょ、疲れちゃった」

 夏美さんは話を打ち切るようにアモを膝から降ろし、一緒に横になった。

 そういって横になったものの、僕も、夏美さんも寝付けず長い夜を過ごすことになった。

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