#07 交わる世界(01)

 「ユージちゃん、おはよう!」

 僕のお腹にアモがドスンと乗っかってきた。その腕にはくろにゃあが抱かれている。

 「いてて。って、ここはどこだ? ……あ、あ、そうか」

 夕べ、ゴローさんの手を借りてオジーさんを家まで担いで来たのだ。鍵がかかっていないのに驚いたけれど、『こいつはこういう奴だ』とゴローさんは笑っていた。高い壁に囲まれているので治安は良いのかもしれないけれど。オジーさんをベッドに寝かすととっととゴローさんは帰っていった。で、僕は唯一寝られそうなソファーで寝ていたらアモに起こされた、という訳だ。え? なんでアモがここにいるんだ?

 「あ、おはよう、勇司くん。朝ご飯、持ってきたよ」

 夏美さんがドアの向こうから顔を覗かせてきた。

 「ん……あれ? ふたりはアイハさんの所に泊まったんじゃなかったっけ?」

 「そうよ。アイハさん、今日早いからって、みんなの分の朝食作って出かけちゃった」

 んー、アイハさん、もしかしてオジーさんと顔を合わせたくないのか。

 「それより夏美さん、夕べは大丈夫だった?」

 僕が尋ねると、アモが大きな声で答える。

 「楽しかったよー。みんなでお風呂入ったのっ! いいでしょー」

 「ちょ、ちょっとアモちゃん」

 慌てて夏美さんが取りなす。僕はアモを床に降ろし、上半身を起こした。

 「や、やだ。何にもないから。ホント。そ、それより早く朝ご飯にしましょ」

 いやいやいや、なんでそこで顔を赤らめるんだ、夏美さん。まぁ、アモがいる限り変なことにはならないと思うが……。


 オジーさんも起こされて四人で朝食。まだ寝ぼけ眼のオジーさんだが、サンドウィッチを一口食べると微妙な表情になった。作った当人がここにいないことが不満なんだろう。

 「へぇ、じゃあアモはくろにゃあの言葉が分かってたんだ」

 「うん! お母さんとアモは分かるよ。でもくろにゃあ、頭いいから余計なことは話さないの。お母さんとザドのおじちゃんには何でも話してたみたいだけど」

 「それ、もっと早く言ってくれればいいのに。……でもお母さんに言われたんじゃ仕方ないか」

 ため息をついて夏美さんがぼやく。そしてくろにゃあの方を向いて「本当に余計なことは言ってないでしょうね」と問い詰める。

 にあ。

 くろにゃあはひと声鳴くと、素知らぬ顔をしてミルクをなめ続けた。

 「もうっ!」

 夏美さんが不満気味な声をあげると、周りから笑いが起きた。


 「じゃあ、行ってくるな。そうそう、今日から祭りだからお前ら楽しんでこいや」

 そう言ってオジーさんは少しのお小遣いを渡して、門番の仕事に出かけた。

 「お祭りだって、アモちゃん。後で行ってみようか?」

 「わーい!」

 「おいおい、今日は先にザドさんの所に行くのが先だぞ」

 「分かってますよ、ねー」

 「ねー」

 ザドさんの家に向かう途中、たしかに街は祭りの準備で慌ただしい空気だった。しかし僕たちが通ると一瞬その手が止まる。そして聞こえるヒソヒソ声。ある程度の情報は出回っているのかもしれないが、ギルトそっくりの夏美さんを快く思わない人もいるようだ。若干強ばる夏美さんの表情。そんな夏美さんを見て、アモが声をかける。

 「ねぇ、ナツミちゃんって喋らない時、ポケットに手を入れるの、なんで?」

 え? それは気付かなかった。確かに今、彼女の右手はポケットに入れられている。

 「……あ。実はね、ポケットの中に私の大切なお守りが入っているの」

 「え? 見せて見せて!」

 「アモちゃんでもだーめ。これは誰にも内緒なの」

 「えー、ナツミちゃんのけちんぼ」

 アモとの会話で夏美さんの表情に笑顔が戻っていく。

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