#12 あがき(02)

 「くそっ、なんてパワーだ」

 これまでのジーウィとは比較にならない。ギガントは操縦者によって実力が大きく変わる。それを今、目の当たりにしている訳だ。

 ジーウィが片手を振ると、周りの水が舞い上がり周辺一帯を凍らせた。

 「やられた! あいつ、僕たちの足を奪いやがった」

 みるみるコーディの足元が凍っていく。冷気は強力で、コーディのパワーを持ってしても簡単に剥がすことができない。

 「まかせて!」

 夏美さんは精神を集中し、コーディの足の温度を上げた。強力な熱の魔法だ。ブワッと足元から水蒸気があがり、コーディの足は離れる。すでに氷はかなりの厚みを持っており、ジッとしていると沈み込んでしまう。

 「夏美さん、もう少し温度を低く」

 「やってみる!」

 足が沈み込まず、しかも凍り付かない適温はすぐに見つかった。

 「まずい、これでは踏ん張りが効かない」

 常に足の裏で氷を溶かしている状態となるので異常に滑るのだ。まるでスケート初心者のようにへっぴり腰のこちらの動きを見てジーウィが氷球を打ち出す。こちらも反射的にファイアーショットで対抗。

 「うわっ!」

 ショットの反動で後ろに弾き返されるコーディ。それを見て走り出すジーウィ。氷球と火球がぶつかり、水蒸気爆発が発生した。

 「ジーウィの姿が見えない!」

 にゃあー!

 こちらの予想より速く霧の中から現れるジーウィ。すでに大きく拳を振り上げていた。腕をクロスさせ防御の姿勢を取るが、時すでに遅し。直撃を喰らってしまう。

 ドズッ……。

 「あ、あれ?」

 大きく後退したものの、ダメージはほぼゼロ。よく滑る氷上が衝撃を吸収してしまったようだ。ジーウィが魔法攻撃に転じる。氷球の連続掃射だ。

 「勇司くん!」

 「おうっ!」

 手からファイアーショットを撃ちだし、その反動で移動し、避ける。間断なくジーウィの氷球が打ち出されるので、こちらもファイアーショットを連射。時に撃ち落としつつ、移動するが、激しい攻撃に段々と距離を離れざるを得ない状況になっていく。こちらが石柱の陰に隠れると、ようやっと攻撃が止んだ。

 「まいったね。これじゃとても近づけないな」

 「それより夏美さん、こんなに連射して大丈夫?」

 「それは大丈夫。競泳選手を嘗めないで」

 そうは言うけれど、やはりかなり消耗しているのが分かる。周りを見渡すと、一面氷の世界。これだけの短時間で街ひとつに相当する面積を氷付けにするとは、底知れぬ魔力と言える。

 「……あの子自身にダメージが返ってくるんじゃないかしら……」

 「早めに何とかしないとな」

 にゃーーーっ!

 石柱の陰に隠れた僕らを氷の爪が襲いかかる。しなやかな鞭のように伸びる数本のそれを、僕らはギリギリ躱す。が、易々と石柱を破壊し砕け散った。

 「なんてパワーだ!」

 「次くるわよ!」

 氷の爪は次々と僕らに襲いかかる。

 「あの爪は背中から花が開くように生えてくるのね。爪がボールの縁を走るみたい。しかも、出してる最中はジーウィは動けない」

 「だいぶスケートにも慣れてきたよな」

 「次、やってみましょうか?」

 「でかいの、頼むよ」

 互いの考えが読めるようになってきた。こうなると負ける気がしない。圧倒的に相手が強いのに。夏美さんは精神集中に入った。

 「来たっ!」

 氷の爪が伸びる。ジーウィを中心に放射状に広がるそれは、僕らを丸々と飲み込もうとする。

 「いくぞ!」

 「はいっ!」

 僕は爪の内側に飛び乗り、腰を落とし安定させた。石柱を軽々と砕く氷の爪はコーディが飛び乗ってもビクともしない。タイミングを計り夏美さんがファイアーショットを後ろに向けた左手から放つ。

 ドゥン!

 その反動で一気に前に押し出される。足で氷を溶かしながらコーディが滑る。こうなると氷の爪はジーウィへ向かうただの丈夫なレールと同じだ。ファイアーショットで超加速したコーディは弧を描いたレールに沿って、矢のような速さで走っていく。

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