#12 あがき(03)

 「うおおぉぉぉ!」

 急接近するコーディにジーウィは対応できない。強力な氷の爪を支えるため、身体全体に力を入れ硬直したままだ。石柱を軽々と砕く爪を支えるためにはパワーが必要なのだ。

 「もう一発!」

 さらにファイアーショットを重ね撃つ。今や、エミティの塔の壁を押し破るほどのパワーを持つファイアーショット。その二段ロケット方式の加速だ。さながらミサイルのようになったコーディが激突する。ジーウィとコーディは絡み合うように倒れた。

 「チャンス!」

 倒れたジーウィの左腕を両手で掴み、両足で挟み込む。そのまま腰を支点にして腕を反対側に反らす。

 腕ひしぎ逆十字固め。

 脱出困難な関節技だ。こちらの身体全体で腕一本を攻めるため、非常に危険なダメージを与えられる。まさか弟の力斗とふざけてやってたプロレスごっこがこんな所で役に立つとは思わなかった。もちろん、本気でやるのは初めて。コーディの操縦も痛みのフィードバックがあるので、ギルトにもダメージがあるはずだ。

 「夏美さん! 相手の魔法に気をつけて!」

 「大丈夫! 痛みで集中できないみたい。きゃっ!」

 なんとジーウィは痛みに耐えつつ、起き上がろうとしている。身体をよじらせ、左腕をゆっくりと持ち上げる。

 「負けるかっ!」

 こちらも力を入れ身体を反らす。ジーウィの関節から煙が上がり始める。ここからでもミシミシと嫌な音が聞こえてくる。左腕にヒビが入り始めた。……そして、ガクンとジーウィの力が抜けた。

 「よしっ!」

 ジーウィの右手が何かを探すように宙を舞う。そして腰に移動し、そのまま顔に移動した。その仕草に気付いた夏美さんが、突然大声をあげる。

 「駄目、ギルト! それだけはやっちゃ駄目」

 ドクン!

 またあの音がしたかと思うと、ジーウィのパワーが戻ってくる。

 「ば、馬鹿な……」

 ウオオォォォォ……!

 雄叫びと共に吹き出すオーラがジーウィの身体を覆う。左腕を折りに掛かるコーディだが、パワーは拮抗している。そして次第にコーディの身体が浮き上がる。

 「く……くそっ」

 ドクン!

 これまでにない衝撃が伝わってくる。そしてジーウィはコーディを左腕にぶら下げたまま起ち上がった。地面という力点を失ったこちらのパワーが一気に弱まる。そしてグググと腕を曲げる。コーディの全身のパワー対ジーウィの左腕一本の力比べ。状況的には圧倒的不利であるにも関わらず、ジーウィが優勢。信じられないパワーだ。そして力ずくで腕ひしぎ逆十字固めを解いてしまった。そのまま右手でコーディの顔を掴み、遠くに放り投げる。

 ウオオォォォォ……!

 ドクン!

 また、あの音がしたかと思うと、みるみるジーウィの身体が修復されていく。

 「また、飲んだのね……あの薬を」

 ジーウィの身体がさらに膨れあがっていく。その身体は圧倒的なパワーと、針で突っついたら破裂しそうな危うさが同居していた。

 「このままじゃ、あの子……」

 またジーウィが冷気を放つ。

 「ああ、恐らく破滅する。あんな薬に人間が耐えられるもんか! どうやら一気に勝負をつけるしかないようだ。攻めどころも分かったけれど……」

 熱の魔法を止め、足元を氷付けにする。そしてファイアーショットの構えを取った。目標はジーウィ。

 「いくぞ!」

 「はいっ!」

 ドゥム! ドゥム! ドゥム! ドゥム! ドゥム! ドゥム! ドゥム! ドゥム!

 これまでにないファイアーショットの大連射! 最初の数発は仁王立ちのまま、余裕を持って身体で弾き飛ばすジーウィ。その後、腕でカバーをし、必死で耐え、最終的に吹き飛ばされた。

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