#12 あがき(13)
「あー、そろそろ良いかね、君たち」
「あ、すみません」
ふたりともボロボロだった。だからこそ大仕事をしたのであろうとも感じられた。
先生が無言でふたりの元に寄ると、静かに言った。
「……お前たち、何か言うことは?」
「すみません、無茶やりました」
「結果的に上手くいったけどな、命は粗末にするな。それは本来、儂ら大人の仕事じゃ」
「はい」
「……じゃがな、お前たちに無茶をさせる原因を作ったのも大人じゃ。許してくれ」
そう言うと先生はふたりを抱きしめた。
「本当によく頑張ったのう。お帰り」
大事を取って、ふたりは担架で運ばれることとなった。手錠をはめたギルトと、それを取り囲む大勢の兵士。それだけの人数を載せてもエレベーターはスカスカだった。
ギルトの圧倒的な力は、薬と赤いボディスーツによりもたらされた物であった。スーツを取り上げられたため、今の彼女は危険な存在とは言えなくなった。ただし彼女に抵抗の意思は全く見えない。
コーディたちはユージたちの手によって宝石へと形を変えられていた。黒いコーディことジーウィは、ザド先生預かりとなった。
地上に着くと、緊張した街の空気はなかった。頭を失ったエミティは力を失い、完全にミドの街を中心とした連合軍によって開放されていた。
「じゃあ、お前たちは病院送りだな」
「だ、大丈夫ですよ、オジーさん」
「おとなしくしてろ、ユージ。どうみてもお前さんが一番ボロボロだ」
「そんなぁ」
「ここはおとなしく従おうよ、勇司くん。それにベッドで寝られるなんて久しぶり」
まぁ、この感じだとあまり心配はいらないだろう。だからこそ、今はこいつらを休ませたい。
「あれ? 何か向こうがザワついてますね」
「……ああ、ギルトが連行されているんだろう。さすがに色々とやり過ぎた、色々とな」
起き上がろうとするナツミを俺は強引に担架に押さえつけた。
「見ないでやれ。武士の情けだ……」
しかし人々の怒りは見ているだけでは収まらない。『バカヤロー』だの『父さんを返せ』といった怒号が飛び交う。まさしく世界を混乱させたひとりであるから当然ではあるのだが。
「止めてください! 石は投げないでください!」
民衆のひとりが引き金となり、ギルトに向けての投石が始まった。止まない投石はギルトの輸送すらさせてくれない。
「……ひ、ひどい」
ナツミが起き上がろうとするところを、ユージが止める。
「ギルトにそっくりの夏美さんが言っても恐らく説得力を持たない。それにギルトはあの投石を避けようともしていない。彼女はあれを自分への罪として受け入れようとしているんだ」
「でも……そんなの……」
俺たちは民衆を止める言葉を持たなかった。便乗組もいるだろうが、恐らくあの中には俺が思う以上に辛い目に合わされた人もいるはずだ。ナツミが身体を起こそうとした瞬間、幼い声が響く。
「やめてー!」
それはアモだった。幼子はギルトを守るように両手を広げ、人々の前に立ちはだかった。さすがに怒りに燃え上がる人たちも、幼子に向けての投石はできなかった。が、人々の怒りは収まらない。
「そこをどけ!」
「俺は家族を殺されたんだ!」
「あん、お前の家族だって殺されたって言ってただろ?」
「ああ、俺たちはカタキを取ってるんだ。邪魔をするな!」
「……ちがうもん!」
人々の口撃は、アモの叫びでかき消された。両肩をわなわなと震わせて、アモは言葉を続ける。
「アモのお父さんも、お母さんも殺されちゃった。それは悔しいし、今すぐにでも返ってきて欲しいもん。でも、そんなの無理。アモだって知ってる。この人に石を投げて返ってくるならいくらでも投げてよ。ねぇ、早く投げてよ。それにね、アモのお父さんも、お母さんもそんなこと望んでないもん。絶対に『石を投げてくれ』なんて言わないもん。勝手にカタキ討ちなんて言わないでっ!」
街が静まり返った。誰も何も言えなかった……。そして、その沈黙を破ったのはギルトだった。彼女は幼子にすがりつき、大声で泣いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます