#12 あがき(12)

 俺たちがエレベーターに到着するころ、氷と炎の塊は激突した。その衝撃で俺たちはホール内に吹き飛ばされる。

 「全員、いるな!」

 オジーが人数確認すると、エレベーターの扉を閉じた。しばらくは細かな石粒が扉に当たる音が響く。そして何かが落下した。音が止むのを待って、エレベーターの扉を開けた。

 俺たちは急いで氷の塊が現れた地点に向かう。朝日の中、そこにいたのは確かにコーディだった。白いコーディと、黒いコーディ。二体のコーディは眠るように背中合わせに寄り添っていた。

 オジーは俺たちにここで待つように言って、コーディに近づく。武器を構え、緊張した足取りで。

 「ユージ。おい、ユージ、いるんだろ?」

 白いコーディに近づくが反応がない。こちらに判断を求めると、白いコーディに昇ろうとする。

 ガン! ガン! ガン! ガコン!

 黒いコーディから突然、物音がする。全員の視線がそこに集中する。緊張が高まる。

 「誰か……いるのか?」

 そっと声をかけてみる。

 「てめぇ、やりすぎなんだよ! 蒸し風呂になっちまったじゃねーか。全身火傷しちまうだろ!」

 「だって、しょうがないでしょ。あんたの氷の魔法が強すぎたんだから。ちゃんと加減くらいしなさいよっ!」

 いきなり、ふたりの少女が飛び出し、口論を始めた。あの声は……。

 「ナ、ナツミィーー!」

 その姿を確認したアイハが駆け寄る。しかし、もうひとりの姿を見て、動きが止まる。

 「あ、あなた……ギル……ト……よね?」

 慌てて武器を構えるアイハ。が、今ひとつ確信が持てないようだった。確かにナツミに似たその少女は、以前とは雰囲気が全然違った。体つきも少し違うように見える。その少女は両手を挙げて言った。

 「ああ、アタイはギルトだ。投降する」

 その瞬間、ナツミに向けてほんの少しだけ微笑んだ。だが、すぐに無表情になり、こちらに向かって歩き始めた。そしてひと言。

 「こいつらに負けたよ」

 これが悪魔のように恐れられた少女なのか。何かに騙されている気すらしてくる。そして、もうひとりの少女、ナツミは悲しそうな眼をして笑っていた。

 俺たちは先生の指示を待った。

 「アイハ。向こうで身体検査を。オジーとリドはそれの監視だ。何するか分からんからな」

 「大丈夫だよ。もう力は使い果たした」

 何があったのか、ギルトは負けを認めたとは思えないほどスッキリとした表情だった。素直にオジーたちに連行され、石柱の陰で身体検査に入った。

 「大丈夫か? ナツミ」

 「はい、ご心配おかけしました」

 「詳しい話は後で聞くとしよう。ところで、ユージは一緒ではないのか?」

 「え? 勇司くんはいないんですか?」

 ナツミがキョロキョロし始める。

 「あー、ここだぁ」

 白いコーディから声が聞こえる。オジーがしがみつくようにして昇ろうとしたコーディに、彼女は軽々と飛び乗った。その跳躍はギルトを倒した説得力を持っていた。

 「大丈夫?」

 「ああ、楽になった」

 中からナツミがユージをお姫様抱っこして出てきた。おいおい、それは逆だろう。くろにゃあが心配そうにナツミの足下にまとわりついている。お前、そこにいたのか!

 「もういいよ、恥ずかしい」

 「駄目! 私が下まで運ぶ」

 自分より大きな少年を抱え、ポンポンとステップを踏むように降りてきた。そしてユージをそっと地面に降ろした。

 「もう大丈夫、ありがとう」

 ふらふらとユージが立つと、ナツミが支えるように抱きしめた。

 「夏美さん……、ゲロ臭い」

 ユージが笑いながら言うと、ナツミもまた笑いながら言った。

 「うっさい」

 ナツミが背伸びをすると、ふたりはそっと唇を重ねた。

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