#Final 未来への扉(01)

   *

 あの騒動が夢のようだった。僕と夏美さんは一日入院しただけで問題なしと判断された。最初は「ベッドでゆっくり寝られる」と喜んでいた夏美さんだったが、もうじっとしていられないようだった。

 主を失ったエミティの塔は、ザドさんや他の街の代表が集まり共同管理されることになった。この世界における魔法の源であるから失う訳にも、誰かが独占する訳にもいかないからだ。きっと、この世界が変わる第一歩になってくれるのではないかと思う。

 エミティと言えば、事実上の首領だったガルフ。庭園から彼の服を着た白骨死体が発見された。また、彼が付けていたマスクはどこを探しても発見できなかった。

 エミティの塔には、ザドさんの奪われた蔵書のほとんどが保管されていた。一部の書籍は見つからなかったが、それ以上に貴重な文献が一緒に発見されたため『お釣りがくるわい』とほくほく顔だ。

 また、大量に作られていた蟻人間やギガントは、その製造が中止された。エミティの塔に残された大量の文献によって、平和的に利用できるように調整できるのではないかとザドさんは考えているようだ。『怖いのは人間の欲じゃよ』と不満を言いながらも、今日も嬉しそうに文献をあさっている。

 両親を失ったアモはゴローさんに引き取られることになった。ゴローさんには娘さんがいることもあり、アモも喜んでいる。

 今はエミティの塔の調査があるので、この街にゴローさん、アモ、オジーさん、アイハさん、それに僕と夏美さんとで共同生活をしている状態だ。エミティ事件の中心人物になってしまった僕たちは予想外に多忙な日々を過ごしている。


 ゴローさんとアモがギルトの面会から戻ってきた。

 「それで、あの子の様子はどうでしたか?」

 「んー、ずーっと、ぼーっとアモの話を聞くだけ」

 僕と夏美さんはギルトとの面会を禁じられた。代わりにアモが『ナツミちゃんの妹なら、アモの妹みたいなものでしょ』と言って毎日面会に通ってくれている。ゴローさんはその保護者だ。アモは夏美さんのことを中心に、僕たちの旅のことを話しているらしい。ギルトは黙ってそれを聞いているだけだと、ゴローさんが言うとアモが反論する。

 「そんなことないよ。ギルトちゃんねぇ、ナツミちゃんの話になると嬉しそうだし、ユージちゃんの話も楽しそうに聞いてくれるよ」

 それに対してゴローさんは肩をすくめるだけだった。

 一通り報告すると、アモはくろにゃあを連れ、遊びに出かけた。

 「じゃあ、ザドさんの所に行こうか!」

 僕たちはエミティの塔に向かった。約束の場所に向かうと、そこにはザドさんと数人の学者さんと思わしき人たちがいた。

 「来たか。まず、これを見て欲しいんじゃが」

 ザドさんが指さすそこには、いくつかの宝石が並んでいた。

 「おい、コーディ、これは……もしかして……」

 「ああ、おいらの兄弟だね」

 コーディと同じ形をしたそれは、全部で4つあった。僕と夏美さんはコーディの兄弟に触れてみる。確かに同じに見えるけど、生命力のようなものが感じられない。

 「死んでいるのか?」

 「うーん、眠っているだけみたいだ。基本、おいらたちはマスターがいないと行動できないからね」

 「お前は僕と出会う前はひとりで行動してたじゃないか?」

 「だって、この世界に来てすぐだったし、記憶なくしてたからね。それに、いつまでもひとりでウロウロしてたらガルフに捕獲されてたんじゃないかな? 実際、ビギの村には、おいらを探しに来てたみたいだし。先ににーちゃんに出会えて良かったよ。……あれ? ……この人は起きてるみたいだ」

 コーディが示す宝石がやわらかな光を放ち始めた。反応したのはそれひとつで、他のはまだ眠っている。

 そして宝石はぶっきらぼうに言った。

 「……主は誰だ?」

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