#Final 未来への扉(02)
「おいらはコーディオン・テン・ツバイだ。君は?」
「……ツバイ……か。久しいな。我はコーディオン・セブ・アング。……なぜ、主は人と交わっておる」
「え? だってにーちゃんやナツはおいらの友達だもの。理由なんて他にないさ」
「なっ、何という……。人は我らを裏切ったのだぞ。あのような仕打ちを受け、なぜ主は平然といられるのか……。分からぬ」
コーディが記憶を失っているせいか、いまひとつ会話が噛み合っていないように思える。 「話に割り込む無礼、お許しくだされ。儂は“爪の領域”のザドと申す者。どうやら貴殿は長いこと眠っておられた様子。恐らく、貴殿のおっしゃる“人”も我らとは異なる者たちのことと思われます。もしよろしければ、お話だけでもお聞かせ願えないでしょうか?」
片膝をつき、いつもとは違った丁寧な口調で話すザドさん。
「……我らの時間の概念は、確かに人と違うようだな。だが心を持たぬ我らの模造品を作った“人”は、やはり許すことはできない。結局、きゃつらが欲しかったのは我らの力だけだったのだ。またこの塔が悪しきことに使われようとしていたのがその証拠」
そう言われるとこちらは反論ができない。そこで再びコーディが話す。
「ねぇ、もしかして模造品ってジーウィのことかい?」
「ああ。我らが総掛かりでも倒すことができなかった、力だけを求めた悪しき存在だ」
「……ジーウィなら倒したよ」
「なっ! まさか、主が、か?」
「う……うん。おいらとにーちゃんとナツの3人でさ」
ザドさんがヒビの入ったジーウィの宝石を取り出した。
「偽りではないようだな。“にーちゃん”と“ナツ”というのは?」
僕は控えめに手を挙げた。
「あ、“にーちゃん”って僕のことです。勇司と言います。で、こちらが“ナツ”こと夏美さん」
夏美さんが会釈をすると、宝石アングの色が赤く染まる。
「何ぃッ! こんな子供たちとかっ! まさか主はこの者たちを載せたのか?」
「? うん。だって友達だもの」
「信じられぬ。あれだけ人を嫌っていた主が。うむむ……」
動揺するアングさんを見て、僕は苦笑いをしてしまう。コーディは出会った時から人懐っこかった。記憶を失っていたお陰か。でも最初のうちは椅子には絶対座らせなかったな。
「アングってさ……人を嫌ってるのかい?」
「主は忘れたのか! “人”が我らにした所業を。かつて友であった奴らと、我らは袂を分かち戦った。そして……」
「……うん。忘れた」
「なんと!」
「おいらさ、ジーウィとの戦いに敗れて気の遠くなるような長い間、領域の狭間を漂ってたんだ。結局、記憶を消すことで戻ることができたんだけどさ。実はジーウィたちに対する恨みや怒りが邪魔してたんじゃないかと、今は思ってる。これが最近戻ったおいらの記憶さ。その時は絶対に忘れないと思ってたんだけど、いざ思い出したら一番どうでもいいバカバカしいことだったよ。そう思えたのもにーちゃんのお陰だと、今は感謝してる。……この人さ、何も知らない世界に放り出されても全然めげないんだ。それを受け入れ、とにかく前に進もうとする。そりゃ無茶もするし、ハラハラしどおしだけどね。でも、その場に留まっているだけじゃ何もできない。だから、この人見てるとワクワクするんだ。見たことのない世界へ案内してくれる気がする。
だからさ、前進するために、とりあえず何かを忘れるってのも正しいと言える方法のひとつなんじゃないかな?」
あまりにも明るく言うコーディに、アングは混乱しているようだ。様々な色の光を放ち、じきに沈黙してしまった。
「どうですじゃろ? このコーディオンが子供たちと手を取りジーウィを倒した。これは貴殿と儂らが力を合わせるべきだという象徴だと思うのです。過去に何があったか儂らは存じません。ですから水に流せとは言えません。しかし互いを理解し、未来に進むということはできませんじゃろうか? 過去を知ることは重要です。ですが、それは未来に進むためであって、縛り付けるものであってはいけないのです。ですから、儂らに過去に何があったかを教えていただけませんかのう? そしてお約束します。同じ過ちは繰り返さないと」
ザドさんが突然演説を始めると、夏美さんがそっと耳打ちしてきた。
(たぶん本音はそこね。昔のこと、色々と知りたいのよ)
「……うぅむ。考えさせてくれないか? あの頑固なツバイを変えたのがこんな少年、少女というのがどうにも信じられん」
いや、コーディが頑固だという方が信じられないんですが。まぁ、僕らが混乱するように、アングさんが混乱するのも無理はない話か。……あ、そうだ。今のうちに言っておこう。
「アングさん。お願いがあります」
「なんじゃ」
「ジーウィを許せ、とは言いませんが、受け入れてやって欲しいんです。アングさんはジーウィを心がないと言いましたが、僕にはそうは思えません。彼にも心があるように感じられました。戦いの間、ずっと泣いているようでした。恐らく心がないのではなく、心が抑圧されているのではないかと。きっと解放されればわかり合えると思うんです。その仕事は同族であるアングさんたちしかできません」
夏美さんは黙って頷いた。そして、僕の話を聞いたアングさんはしばらく黙った後、大声で笑い始めた。
「わははは……。分かった。努力してみよう。……ツバイよ、主の変化の理由が少しだけ分かったような気がするよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます