#07 交わる世界(02)

 僕たちがザドさんの家に着くと、数人の人たちと打ち合わせをしていた。その中のひとりが手を挙げて僕たちに声をかける。

 「やあ、よく来たね。ちょうど今終わったところさ。ちょっと待っていてくれ」

 そしてザドさんが終会を告げると人々は次々と去って行った。夏美さんとすれ違う人はニヤニヤと笑ったり、睨めつけたりと、何らかの反応を示していた。それらの人たち全員に夏美さんは会釈を返していた。やがて、先ほど声をかけた男性、ゴローさんが僕たちの所にやってくる。

 「こんにちは。ゴローさん、眼鏡かけると印象変わりますね」

 「ははは、仕事モードだよ。伊達なんだけどね。そちらがナツミかい?」

 僕は、夏美さんやアモ、くろにゃあをゴローさんに紹介した。挨拶を済ませるとザドさんが近づいてきた。

 「ほっほっほ。夕べ、ユージとゴローは飲んだらしいな」

 昨日の今日で慣れる訳もなく、夏美さんは若干の緊張を見せるが、ザドさんは全く気にとめていない。

 「いやいや、ザド先生。誤解を招くようなことはいわんでください。俺は子供に酒は飲ませてないですよ」

 「まぁええ。ゴロー、説明の方、よろしく頼むぞ」

 そしてアモの方を向いてにっこりと笑った。

 「じゃあ、アモ。儂とお外に遊びに行こうか」

 「えー。アモ、ナツミちゃんと一緒にいるぅ」

 「もうすぐお祭りも始まるし。なっな。お外に行こう」

 「やだやだ。ナツミちゃんと一緒にいるのっ!」

 珍しくアモが駄々をこねる。困り果てたザドさんを見かねて夏美さんが話しかける。

 「アモちゃん、ごめんね。これから私たち難しい話するからザドさんとお外行ってきてくれるかな?」

 「やだやだ。アモも聞くの!」

 夏美さんの言うことを聞かないのは初めてだ。アモのあまりに真剣な眼についに夏美さんが折れた。

 「じゃあ、絶対におとなしくしてる? 約束よ。構わないですか? ザドさん、ゴローさん」

 苦笑いするゴローさん。ザドさんは笑い声を上げながら、アモの頭を撫でた。

 「ほっほっほ。そうか、そうか。そんなにナツミのことが心配か。……良い子じゃのう」

 ゴローさんは黒板の方に移動するとピシャリといった。

 「では、始めますよ。そうそう、話を始める前にユージ。お前が昨日話してくれたスマホってのを見せてくれないか?」

 「あ、はい。ここに。でも壊れてますよ」

 僕は電源を切った状態のスマホをゴローさんに手渡した。興味深げにザドさんが覗き込む。

 「なんじゃ、これは。ツルンとしてよく分からん板じゃな」

 「これは俺のいた世界のコンピュータみたいな物だそうですよ。ここに情報を映して、指で触れて操作するんだそうですよ。ユージ、電源はどこだ?」

 「あ、上の方にあるボタンを数秒押してください」

 ゴローさんは言われるがまま操作するが、スマホは画面すらつかず、沈黙したままだ。

 「やはり、動きませんね」

 「ほほほ、当たり前じゃ。これは水晶発振を使ったオモチャ(ガジェット)じゃろ?」

 「そうです。ありがとう、勇司」

 僕はスマホを受け取ると、疑問を口にした。

 「今の行為に意味があるんですか?」

 「大ありじゃ。水晶というのは特殊な物質でな。世界によって性格が変わるんじゃよ。お前さん方の世界では水晶は電気を流すと一定間隔で発振するんじゃろ? この世界ではそういった働きはしないのじゃ。確か水晶の発振をあたかも心臓の鼓動のようにして電子機器を動かすんじゃろ? そのガジェットは壊れたのではなく、動けないんじゃ」

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