#07 交わる世界(03)

 「じゃあ、元の世界に戻ればスマホはまた動くって訳ですか?」

 僕は思わず疑問を口にした。その時、アモがビクリと身体を動かしたことに僕は間抜けなことに気付かなかった。

 「……帰れればな。この話は終わりじゃ。それより本題に入るとしよう。ゴロー、後は頼むよ」

 ザドさんに指名されるとゴローさんは僕たちを席に着くように促した。

 「まずはこの世界と俺らの世界の関係から話をしていいかな?」

 僕と夏美さんは黙ってうなずいた。

 「まず、俺とユージたちは同じ世界の人間である。夕べ、昔話をしたが、全く矛盾なく会話が成立したことからこれは証明されたってことでいいな?」

 「そうですね。ただ、そういう話が出るってことは、やはりここはパラレルワールドとかそういうものなんですか? だとすると僕らの世界に酷似した別の世界があってもおかしくないですよね?」

 「結論から言うと、酷似した世界というものは無いと考えている。俺らとオジーの世界のように近い生物がいる世界はあるようだけどな。……でも、仮にふたりのユージがいて別々の部屋に閉じ込めたとしよう。ふたりのユージは全く同じ行動をとるかというと、そんなことはない。ほんの小さな差かもしれないが、必ずズレが生じる。そして、世界にはユージ以外にも沢山の人間、生物がいる。そうして生まれた沢山の小さい差が、長い時間をかけて積み重なると、同じスタートでも全く違う結果になると考えられるんだ」

 「でも、僕とゴローさんはちょっと時代がずれていますよね」

 「ああ、そこがこの話のややこしいところだ。この世は波でできている。たとえば光は電磁波という波の一種だし、音もそうだ。振動という波が空気を介して耳に届いている訳だ」

 そう言うとゴローさんは黒板に正弦波を書き始めた。科学番組などでよく見る規則正しく波打つ曲線だ。

 「そして、この世界に来て俺は知ったんだが、時間もやはり波でできているんだよ」

 「え? ちょっと待ってください。時間は常に一定方向に進んでいるのだから、波打っていようが関係ないんじゃないんですか? 僕らはその線の上を歩いているだけだから」

 「ああ、世界がひとつなら、曲線であると考える意味はない。しかし世界はひとつじゃないんだよ」

 「あ……」

 そう言ってゴローさんはすでに書いた正弦波に、もうひとつの正弦波を少しずらして別の色で書き加えた。波打つ間隔や大きさが異なるその図形が加わるだけで話が難解に見えてきた。

 「さっきのが俺たちがいた世界。そして、これが別の世界としよう。この図は概念的な物で、時空学でも分かっていない部分が多いんだが……」

 「時空学?」

 「ああ、この世界の成り立ちと、時間に関する学問だ。で、俺たちは……」

 そう言ってゴローさんは最初に書いた正弦波の頂点から真横に線を引き、もうひとつの正弦波にぶつかるところで止めた。

 「何らかの理由で、こっちの世界からこの世界に移動してしまったという訳なのさ」

 そこで夏美さんが大きな声を出す。

 「あ、そうか。私たちとゴローさんで移動するポイントが違うから、この世界に来たタイミングがずれたという訳ですね」

 そう言って黒板に近づくと、ゴローさんが書いたのと同じように別のポイントで正弦波に線を引いた。その線の長さは明らかに違っていた。

 「そう。つまり、俺たちがやったのは単純な異世界移動という訳ではない。時間軸と世界軸を同時に移動するややこしいことをしてるんだよ」

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