#07 交わる世界(08)
「エミティの連中の動きが激しくなっておるので、できるだけ早く協力してもらえると助かるんじゃが」
「エミティ? 何ですか、それ?」
始めて聞く単語なので僕は質問してみる。
「……パトルたちの村を襲った連中じゃよ」
「! ギルトたちの。“軍”と呼ばれてた奴らですね」
「エミティとは、ここから離れた所にある“神”の遺跡なのじゃ。発掘された時は朽ち果てた遺跡じゃったのだが、自己修復を始めてのう。長い年月をかけて天にも届く塔に成長したのじゃ。自身が強い魔力を帯びておるため、周りに街ができた。その塔は何者も受け入れなかったのじゃが、ある時、ひとりの男が侵入した。誰にも気付かれることなくな。いつの間にか、その男の元に各地のならず者が集まるようになり、その男は力を与えた。それがルネットやロンボーンといったギガントじゃ」
「それに対抗するためのルガンですか……」
眼の前にいる巨獣。身体は大きいが、足が異常に太く機動性が悪そうだ。
「ああ。〝鉄の領域〟の文献にあった物を参考に儂らが作ったギガントじゃ。何とか量産にこぎ着け、このダムとミドの街に数体が配置されている状態じゃ」
「では……エミティとミドの街は戦争状態にあると言って……」
「……いいじゃろうな。我々が対抗組織を作ったのもほんの数ヶ月前じゃ。警備隊も素人同然。ただルガンの防御力が高く、あやつらのギガントでは手が出せん。対抗組織を育てるための時間稼ぎ程度にはなっておるかな」
複雑な気持ちになった。ザドさん自身は信頼がおけそうな人物だ。しかし、彼は戦争に巻き込まれそうになっている。コーディが欲しいのは知識欲のため? それとも……。
「この世界はいびつじゃ。技術は高度に発達しているとも言えるが、政治面では未発達もいいところ。対話による和平は、力による制圧の前に無力なのじゃ。恐らく、エミティの塔の……“神”の技術があれば一気に世界を手中に収めることができるじゃろう。それができないのは、未だ解析中であるということじゃ。早く、手を打たないと。儂らには思うよりも時間がないのじゃ」
ザドさんの苦悩が伝わってくるようだ。
「……ギルトもその一員という訳ですね」
ザドさんはコクリと頷いた。
「そういえば、ナツミは子供たちに懐かれておったな」
ザドさんは強引に話を切り替えた。
「みたいですね。アモも夏美さんにはすぐに懐きましたしね」
「ほっほっほ。それじゃ、向こうの世界でも人気があったじゃろう」
「……向こうではひとりでいることが多かったですね。いっつも黙々とトレーニングしてて」
「くっくっく、それをお前さんはいつも見ていた、という訳か」
あれ? そういえば気がつくとグラウンドの近くを走っているような……。
「た、たまたま視界に入っただけですよ。それに僕なんかがじゃ釣り合いませんよ」
「何を言っておる。お前さん方はずいぶん仲よさそうじゃないか。子供たちとだって楽しそうに話をしておる。むしろ壁を作っておるのはお前さんじゃないのか?」
……確かに彼女がトップアスリートであると意識しているのは僕の方かもしれない。この世界に来てからも、彼女は魔法を使えるようになりさらに差をつけられたけれど、僕たちの関係性は変わらなかった。でも……。
「よく……わかりません。ザドさんの話が正しい気もしますし、違うかもしれない」
「ほっほっほ。悩め、悩め。それが若者の仕事じゃ。ただし決まった答えはないぞ。お前さん自身で考えるのじゃ。そして、もし心が決まったらあの娘を守ってやりなさい」
「でも、夏美さんは多分僕より強いですよ」
冗談交じりに僕が返すと、ザドさんが少し起こったような表情になった。
「あの娘は無理をしているようにしか見えんがのう。いつ爆発するか分からんぞ。恐らく〝強さ〟というものを勘違いしておる。その辺はギルトと姉妹じゃのう」
そしてザドさんの表情が優しいものに変わった。
「その時、お前さんがあの娘を支えてあげるのじゃ。きっと、いつか、その時は来る。それはお前さんにしかできないことだぞ」
「……。果たしてそんな時が来るんでしょうか?」
ザドさんはそれには答えずにくっくっくと笑い出した。
「しかし、話が違うのう。もっとお前さん方は〝らぶらぶ〟な関係かと思っとったぞい。その様子じゃ、まだまぐわっておらんようじゃのう」
「まぐわ……? そ、そんな、僕たちはまだ中学生ですよ? ま、ま、ま、まだ早すぎますって。それより何で僕らのことにそんなに詳しいんですか?」
動揺する僕。その時、コーディが大きな声を上げた。
「にーちゃん! 街が、街が!」
僕たちが振り返ると、ミドの街から大きな煙が立ち上るのが見えた。
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