#07 交わる世界(07)

 街を出たので早速スピードを上げてみた。

 「おいおいおい。ちょっと早すぎるぞい!」

 「大丈夫ですよ! しっかり掴まってください!」

 自転車と同じ感覚で運転できるので、すぐに慣れた。沢山の木々が生える森だって、すいすいとすり抜けていく。後ろに乗っているザドさんが悲鳴のような声をあげているけど、そんなにスピードは出してるつもりはないんだけどなぁ。エアバイクは水の上も走れるし、このダムの壁くらいなら大丈夫だとのこと。しかもこの世界ではどこにでもある魔力で動くから燃料の補給は不要。もの凄く便利な乗り物だ。でも、ダムを昇ろうとしたらザドさんにやめるよう懇願された。

 「はあはあはあ。お前さん、結構スピード狂じゃのう」

 「ははは、すみません。つい楽しくて」

 木でできたダムだけど、実際に来てみるとかなり大きい。この高さに来るまで、かなり大回りをして時間を取ってしまった。

 「絶景ですね、ここ」

 ダムから一直線に川が伸び、その先にミドの街。川はそこで90度曲がってさらに下流に向かっている。ここからはミドの街がとても小さく見える。この川が街の暮らしを支えていることが容易に想像できた。

 背後には大量に水がせき止められ、大きな湖ができている。僕らの世界ではよく見る光景だが、この世界でこれだけ大量な水が集まっているのを見たことがない。

 「あれは何ですか?」

 僕が指さす先には、ロンボーンともルネットとも違う巨獣が鎮座していた。

 「あれはルガンじゃよ。人の手によって動かる人造ギガントじゃ。このダムを襲われたら大変なことになるからな。迎撃に特化した防衛タイプじゃ」

 「……僕にそんなこと喋っちゃって良いんですか? なんか逆に心配しちゃいますよ」

 僕は率直に疑問をぶつけてみた。すると、ザドさんは大声を出して笑い出した。

 「はっはっは。それはそうじゃな。まぁ、お前さんも例の〝予言書〟に登場するしな。ナツミが信用できるなら、お前さんも信用できる人物という訳じゃ。それにな……」

 ザドさんは鋭い爪で僕の胸を指さした。

 「お前さんがいる以上、戦いは避けたいしな」

 「なんだ、気付いてたんだ」

 僕の胸にぶら下がるコーディが久々に声を出した。

 「にーちゃんに当面喋るなと言われてたんで我慢してたんだけど、いやあ黙ってるのも疲れる、疲れる」

 「ほっほっほ。初めまして、でいいかな? ザドじゃ」

 「おいらはコーディオン・テン・ツバイ。にーちゃんたちからはコーディって呼ばれてるけどな」

 「くろにゃあから“コーディ”とは“コーディオン”のことだと聞かされた時は驚いたわい、わっはっは」

 笑いながらザドさんは言うけれど、“コーディ”と“コーディオン”が結びつかない言語感覚は僕には理解できない。

 「まさか、まだ稼働するコーディオンがおるとはのう。儂もコーディと呼んで良いかのう?」

 「別にいいよ!」

 「ありがとう。何しろお主は“神”が創った最初のギガントとされておるからな。わずかな文献で存在を確認できるだけなのじゃ。この前、お前さんの目撃報告があった時も、またデマじゃと思っておった」

 僕は素直に驚いた。

 「そうなんですか? こいつ、平気でその辺うろついてましたよ」

 「うろついてたとは失礼な! にーちゃん」

 「その辺のことも聞きたいのじゃが、どこかに隠れておったのか?」

 コーディは悩んでいるようだったので、僕は話すように促した。

 「……実はおいら、記憶がないんだ。正確には断片的で上手く繋がっていない。今、修復している最中だからそのうち分かると思うけど……」

 「ふむ。それはそれで凄いのう。どうじゃ、儂にお前さんを調べさせてくれんかのう」

 「嫌だ! それだけは絶対にっ」

 珍しくコーディが声を荒らげる。

 「そうか……。それならお前さんがその気になるまで待つしかないのう」

 ザドさんは、その答えを半ば予期していたような反応をした。

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