#10 ふたりだけの軍隊(12)
「あれ? 停まった。あ、操作パネルはこっちか」
勇司くんが色々と操作するが全く反応しない。終いにはドンと強く叩いたけれどエレベータは無反応。
「くそっ! どうなってるんだ」
ギロッ。
勇司くんの叫びに反応したのか、カプセルの中の蟻人間たちが一斉にこちらを向いた。360度、見渡す限り、蟻、蟻、蟻。私は思わず勇司くんの後ろに隠れてしまう。
「よぉうこそ!」
突然響く大きな声。中央を向くと、黒いフードを被った細身の男が宙に浮かんでいた。
「くっくっく……初めまして、ルティ。我が妹よ」
その言葉を聞いた途端、私の血が一瞬にして煮えたぎる。次の言葉を待たずにファイアーショットを放った。見事、男の腹に命中……したはずなのに、ショットはむなしくすり抜けていってしまった。
「馬鹿、落ち着け!」
勇司くんが私を止める。でも、でも、こいつが……。
「自己紹介がまだだったね。我が名はガルフ。ルティとギルトの所有者。そして、全ての世界を所有すべく選ばれた者だ」
ガルフの顔の半分はマスクで隠れていて表情が読めない。
「貴様! なぜビギの村やミドの街を襲った」
冷静に見える勇司くんだが、怒りで手が震えている。
「…………あぁ。あれか。遊びだよ、遊び。新しいオモチャができたものでね。妹に与えてみただけだよ。もっと楽しめると思ったんだけどなぁ。期待外れだよ」
どうでもいいことを思い出したようにガルフがつぶやいた。
「そんなことよりルティ、こちらに来なさい」
「嫌よ!」
「なぜだい? 妹なら兄の言うことに従うべきだろう。欲しいのだよ、お前のその力。あの馬鹿娘に生身で対抗しうる、お前のその能力が。同じように強化してやれば、あれを遙かに超える世界を統べるに相応しい王の器の誕生だ」
背中に悪寒が走る。なんだろう、この感覚。そうか……あれに似てるんだ。
「あんたね、牢で私のこと覗いてたの!」
「ほう……勘も良い。ますます気に入ったよ。取り引きをしようじゃないか、ルティ。コーディオンを持ってこちらに来なさい。そうすれば、そこの男の命は助けてやろう」
それは取り引きになっていない。私が抗議しようとすると勇司くんが割って入る。
「それは本当か? どうせ生かすなら俺も仲間に入れてくれないか?」
その言葉に耳を疑った。間違いでないよう、勇司くんは同じ言葉を繰り返した。
「あーはっはっは。君は君で面白いなぁ。君がユージか?」
「そうだ。コーディは俺のいうことしか聞かないし、ルティだって似たようなものだ。何をするのか知らないが仲間にして損はないぞ」
勇司くんは鎌をかけている。
「ほう。君も世界が欲しいのか。面白い。……なら半分でどうだ?」
「えっ、半分? 良いんですか? まいったなぁ、ははははは……」
「ははははははは……」
感情のこもらない笑い声が緊張感を招く。笑い声が同時に止むと、ふたりは黙ってしまった。
……あれ? めまいがする。急に吐き気も。
数秒の沈黙の後、最初に口火を切ったのはガルフだった。
「やるわけないだろう。人には器という物がある。何の力も持たない君に、何の価値があるというのかね?」
「何ぃっ!」
今度は笑いを堪えきれずに笑い出すガルフ。私の吐き気は止まらない。
「あーはっはっは。君は、自分が何を手にしたのかをもう少しきちんと知るべきだったね。私の計画に君は不要、単なる障害物にすぎないからね」
身体全体が痺れてきた。意識も朦朧として何が何だか分からない。
「……夏美さん? 夏美さん?」
「くっくっく……」
一体、何が起きてるの?
「夏美……さ……ん」
ぼんやりとした視界に飛び込んできたのは、私のふたつの手が勇司くんの首を絞めるところだった。
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