#10 ふたりだけの軍隊(11)
*
「うっさい! とっとと行くぞ!」
そう叫ぶと勇司くんは早足で部屋から出て行ってしまった。彼がこんな口調で言うのは初めてだ。でも、その背中が言っている。
『信頼してくれ』、と。
彼は魔法が使えないし、身体能力的にも私の方が上。でも勇司くんはこのチームのリーダー的存在だ。何がそうさせているんだろう……。
……そうか。彼は私やコーディを頼っているのではなく信頼しているんだ。
にあ。
くろにゃあが早く行こうとばかりに振り向いた。そう言えば、この子にロープが結んであって私は助かったんだっけ。
!
いや、あの状況で勇司くんはくろにゃあにロープを付けられない。コーディの操縦をしている時は、感覚が完全に入れ替わるので不可能なのだ。と、言うことは彼は私が落ちるであろうことを“あらかじめ予想していた?” 確かに、躊躇なく塔にぶら下がれたのも、勇司くんに逢いたいという気持ちと、何かあっても彼なら何とかしてくれると信じていたからだけど……。
あれ? こんなに勇司くんの背中って大きかったっけ? ……そうか、頼って良いんだ。信頼して良いんだ。今までと同じで良いんだ。
彼は必ず私を受け止めてくれる。
それを忘れなければ良いのだ。
「はいっ!」
私は勇司くんに向かって大きな声で返事をした。そしてスタスタと歩く勇司くんに小走りで追いついた。
間近に来て分かったけれど、彼の首筋は真っ赤。きっと照れているのだろう。
「勇司くん、ありがとう」
私は彼がどういう反応するか、期待しつつ声をかけてみた。
勇司くんは改心の笑みを浮かべ、親指を立てた。そして何か思い出したように袋に手を入れる。
「忘れてた。はい、サンドイッチ」
窓も扉もない廊下が続く。私は行儀悪いけれど、歩きながら食事。アイハさんのサンドイッチは涙が出るほど美味しい。あっという間に平らげてしまった。
「なぁ、コーディ」
「なんだい、にーちゃん」
「お前……記憶戻ってるんだろ?」
「……結構ね。おいら、ここにいたことがあるみたいだ」
勇司くんは頭をかきながら言う。
「お前なぁ、早く言えよな」
「悪い。というか、塔の外見は知らないけど、中は分かる。ドアのロックもね……なんとなくだけど」
「どうすればギルトの所に行ける?」
「それは分からない。たぶん塔の上の方じゃないかな? もう少し行くとエレベーターがあると思うよ」
コーディの言うとおり、しばらく行くと扉があった。ここまで敵に全く遭遇しなかった。生活感というか、生き物がいる感覚がしない。天高くそびえるこの塔は、何のために存在するのだろう。そう言えば私もこの塔ではなく、外のリングに収監されていたのだ。
勇司くんが扉を開けると、そこは呆れるほど白く大きな円柱状の空間だった。コーディサイズでも楽々の高い天井。この巨大な空間を上下させる意味はあるのだろうか?
「コーディ、ここでいいのか?」
「たぶんね。ここはギガントも使えるエレベータだよ。ギガントは別の入り口を使うんだけどね」
コーディの指示に従いパネルを操作すると、扉が閉まった。シュッという音と共に白い壁が透き通って行く。そして、ガクンと軽い振動の後、軽い重力の変化が起きた。
「上に……昇ってるみたいね」
「ああ、壁が透けてくれて分かりやすいよ」
巨大さゆえ、速度はかなり遅め。だから透けて見えるフロアの様子がよく分かる。
「これって何なんだろうな?」
外のフロアにはガラスでできたと思われる、人が入れそうなサイズのカプセルが無数に並んでいた。少し上のフロアに移ると、そのカプセルに液体が満たされているものばかりとなった。さらに上のフロアに移ると、何か何かがカプセルの中に浮かんでいるのが見える。
「勇司くん……これ……」
「……ああ。これは、蟻人間だ……」
今度のフロアに並ぶカプセルの中には蟻人間がずらりと並んでいた。私たちは蟻人間の成長の様子を見ていたのだ。
「じゃあ、ここは“蟻の巣”……というか蟻人間の工場」
私がつぶやくと、エレベータがガクンと音を立てて停止した。
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