#Final 未来への扉(03)
アングさんによって多くの情報がもたらされた。中でも“時空学”の真相は、僕らの運命を一変させた。
アングさんと話をした翌日、ザドさんが息を切らせて僕らの家に飛び込んできた。
「え? 僕たち、帰れるんですか?」
「そうじゃ。アング殿によって正しい領域ジャンプの座標計算が確立しての、お前たちは3日後にジャンプすればほぼ同じ時間に“水の領域”に戻ることができる」
僕と夏美さんは眼が合うと、思わず抱きしめあった。
「やったっ!」
「帰れるんだ、私たち」
「……でも、戻っていいんですか? 僕たち」
そう言うとゴローさんは笑って僕の頭をくしゃくしゃにした。
「良いに決まってるだろ? お前らは元の時空に戻って、元の生活を大切にしろ。失ってからでは分からないことも沢山あるんだぞ」
「ゴローさんも一緒に戻りましょうよ」
夏美さんの提案にゴローさんの表情が歪む。
「ああ。戻りたい。戻りたいけど、俺の居場所はあの領域にもうないんだ。それにこちらに守るべきものもできたしな」
「そうか……そうですよね。すみません」
「謝ることじゃないさ。おめでとう!」
僕はちょっとした疑問をぶつけてみた。
「ところでザドさん、なんで同じ時間に戻るんですか?」
「ああ。以前、同じ領域、同じ時間に同じ生物は存在できないという話をしたじゃろう」
「確か、弾かれてその世界に入れないんですよね」
「実はコーディオンによる移動なら、相手を弾き飛ばすことが可能なんだそうじゃ」
「……えぇ? じゃあ、もしかして」
「そうじゃ。お前たちがこの世界に飛ばされてきたのは別のお前たちが水の領域に侵入してきたので弾き飛ばされたんじゃよ」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいよ。そんなことってあり得るんですか?」
「実際に起きたことだけが真実じゃ。頭の中で全てが分かるほど世の中は単純ではないぞ。もっと、もっと驚きに満ちておる。お前たちはそれを実体験できるんじゃ」
「う、うーん。なんか納得がいくような、いかないような」
「この機会を逃すと、お前さん方が水の領域に戻る時にタイムラグが発生してしまう。概算じゃが、数年単位でズレるぞ」
すると夏美さんが笑って言った。
「細かいことはいいじゃない! この冒険、楽しかったし」
「いや、冒険はまだ終わりではないぞ」
喜ぶ夏美さんの声を遮るようにザドさんの声が変わる。
「お前さん方には頼みたいことがあるんじゃ。それはもしかすると、この世界での冒険よりも大変かもしれん」
僕たちは姿勢を正した。
「儂らはな、まずこの世界を統一する。そして、他の領域と比べても恥ずかしくない世界を作る。……そして、他の領域に進出する」
「! まさか戦争ですか?」
僕は思わず起ち上がる。するとザドさんは笑って首を振った。
「違うよ。友好関係を築くんじゃ。コーディオンがある以上、いつかは領域と領域が結ばれる日が来る。これは悪用しようと思えばいくらでも悪用できる仕組みでもある」
僕はガルフのことを思い出していた。それはまさに彼の思想そのものだからだ。
「だから、そんなことが起きないよう、先に平和な世界を作るんじゃ。寄せ集めの世界は武力はあるが、政治力は皆無じゃ。しかし知恵はある。今まできっかけがなかっただけじゃ。友好を結ぶことを目標にすれば早々に政治力も身につくじゃろ。そして、一番最初に友好を結びたいのが“水の領域”なのじゃ」
「僕らの世界……ですか。どうして」
「理由は簡単じゃよ。お前さんたちがおるからじゃよ。一足先に戻って儂らを受け入れる準備をして欲しいのじゃ」
「そんなこと。僕らはただの中学生ですよ。まあ、夏美さんはトップアスリートだけど、そんな力はありません」
「何を難しく考えとる。お前さん方の世界には儂らのようなサーディアンはおらんのじゃろ? 儂らと仲良くするだけで良いんじゃ。それだけで世界は変わる」
「そんな単純に行きますかね?」
「駄目ならギガントを投入して脅しをかけるわい」
ザドさんは冗談のつもりだが、ちょっと洒落にならない。そこで少し考え込んでいたゴローさんが割り込んできた。
「それなら俺も役に立てるかもしれません。俺は向こうの世界では地震で死んだとされる人間です。しかし実は別の世界に移動していたと分かれば友好的に接してくれるでしょう。きっと家族や友人が俺のことを証明してくれるはずです」
「そうか! それなら堂々と戻れますね!」
「ああ、その通りだよ、ナツミ。俺の家族や友人に、新しい家族を自慢できるんだ。……きっとみんな喜んでくれると思う」
「そうですよ! あぁ、何か涙が出そう。ゴローさんの失った世界が戻ってくるんですね」
「それだけじゃないぞ。他の領域とも世界が繋がるんだ。俺たちが世界を変えるんだ」
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