#05 白銀のコーディオン(06)
「アモたちはどこにいる?」
迫りくる二匹のロンボーン。僕は受け止めるために腰を落とすが、アモたちが気になって集中できない。
「村の中! 今、奥に入っていった! 誰かに追われてるみたい!」
ガッ、ズズズズズズー。
二匹のロンボーンの体当たりに、巨大な土煙を上げながらコーディが押し戻される。二匹とはいえ先ほどよりも強い衝撃に感じられる。どうやら、こちらの精神力が思う以上に影響するようだ。
「クッ、負けるか!」
集中するとコーディのパワーは上がる。二匹の巨獣の体当たりを受け止め、そして押し返す。
「勇司くん、外に出して! 私、アモちゃんたちを助けに行く!」
夏美さんの声から焦りが感じられる。
「無茶だ! こんな危険な状況に出す訳にいかない!」
「でも、行かないと! 殺されちゃう!」
目前の巨獣を相手にしている僕は全く状況がつかめない。
「くそっ!」
一匹の巨獣を蹴り飛ばし、とりあえず村から遠ざける。そして残った一匹の首を右手で締め上げ、そのまま巨体を持ち上げる。首を絞めているので炎も吐けない。グググっと高くなるにしたがいロンボーンの瞳孔が大きくなる。驚異を感じてる証拠だ。
「夏美さん! ファイアーショットだっ!」
「え? あ、はい!」
余った左手を突き出し、先ほど蹴り飛ばした個体にとどめを刺す。しかし、ここでタイミングがずれた。夏美さんの反応が遅れたため、火球がかすったものの致命的なダメージを与えられなかった。
「しまった!」
僕は慌てて右手の巨獣を投げつける。勢いよく飛んでいく巨獣は相方に激突し、大地に倒れ込んだ。二匹ともダメージで立ち上がれない。
「コーディ! 扉を開けてくれ!」
「にーちゃん、大丈夫か?」
「やるしかないだろう? それと夏美さん、アモたちを保護したらすぐに戻るんだ。いいね?」
「勇司くん! ありがとう!」
胸の扉が開き、僕はコーディの右手のひらを差し出す。手のひらに夏美さんの重みが伝わると扉が閉まった。ようやく巨獣たちが立ち上がった。敵わないと分かっているはずなのに、こちらに突進してくる。面倒な相手だ。急いで夏美さんを地面に降ろすと、彼女に被害が及ばないようにポジションを移動する。
「にーちゃん、いいのか?」
「夏美さんの集中が切れかかってるから仕方ないさ。使ってみて分かったけど、魔法ってのはタイミングが重要だ。今の僕らじゃ、失敗するかもしれない。それよりはコーディのパワーで押し切る方が良いと判断したんだ」
「そんなに期待しないでよ、にーちゃん」
僕は大剣に手を伸ばした。
「とにかく夏美さんのいる村にはこいつらを近づけない。それに魔法が使えない以上、こういう戦いにならざるを得ない。女の子をこういう戦い方に巻き込みたくない。一気にカタをつけるぞっ、コーディ!」
二匹の巨獣に向かって僕らも走り出した。
「……にーちゃんはやさしいね。でも、それは……」
「今の夏美さんなら大丈夫さ。それより集中しろ! 来るぞ!」
まずはダメージの少ない方を目標に定める。スピードを上げつつ姿勢を低くし、剣先をいつでも相手に向けられるように突進する。奴らの皮膚は硬い。が、一般的に生物は腹が弱点だ。身体の重心であるため狙いやすいことに加え、重要な臓器がある。うまくすれば一撃で致命傷を与えることだって可能だ。……これはパトスさんの教えでもある。生き物なんてそれほど構造は変わりはしない。未知の生物に出会ったら、とりあえずそう考えるんだ。そして自分の方針を決めたら迷わない。迷ったら……負けだ。
「うおおおぉぉぉ!」
目前にロンボーンの姿が入る。身を屈めながら突進するコーディを上から叩き伏せようと両手を挙げる。思う壺だ。
僕は大剣の向きを変え、相手の腹の中心部に向ける。そして余った左手を添え、一気に押し込む。
ギャアアアーーーー。
巨獣の怪声がこだまする。強靱な皮膚を突き破り、肉を、内臓を貫く感覚が伝わってくる。そして剣が巨獣の身体を貫くと青い空に真っ赤な体液が飛散する。僕の手には、肉を貫く、あの嫌な感覚がいつまでも残っていた。
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