#11 対決(11)

 僕は夏美さんと同じように走ってみた。

 「あっ!」

 コーディがバランスを崩しかけたけれど、すぐに持ち直した。

 「ごめん、夏美さん」

 「いえ、突然でびっくりしただけ。続けてみて」

 「おう!」

 彼女のイメージは少しスピードを落として走り始めた。……いや、違う。これは、彼女のイメージする僕なんだ。

 「一度、勇司くんに潜った時、身体の隅々まで見せて貰ったから。多分、勇司くんよりも、勇司くんの身体について知ってると思う」

 「つまり、僕はあそこまでやれるってことか。面白い!」

 僕が主動になって、再びジーウィへの攻撃は当たるようになった。しかしパワーの差は歴然で、依然として弾き返される状態が続く。

 「勇司くん、まだまだ無駄な力が入ってる!」

 走ることに必要な力以外は不要。考えてみれば当たり前だ。そして必要な所にだけピンポイントで、本当にそこだけ力を入れる。するとイメージのフォームに近くなってきた。

 「お!」

 グンとコーディの走る速度が上がる。生身よりも結果が大きく反映されるので、コツが掴みやすい。

 「そう! 良い感じ。私も勇司くんのイメージに合わせるね」

 僕と併走するように夏美さんが現れた。ゆっくりと接近して僕と重なるが、ふたりお動きはバラバラ。イメージは遙か遠く。まだ、右腕が、左足が、全てのパーツがバラバラに動いているようにしか感じられない。

 「じゃあ、行くわよ!」

 夏美さんのかけ声と共に、一気にスピードが上がった。僕の走り方に、夏美さんがいきなりシンクロしてきたのだ。

 「うわぁ!」

 これが! これが彼女の言っていたイメージとシンクロした状態なのか。さっきまでバラバラだった僕と夏美さんのパーツが一体化しているのを感じる。そして、彼女に引っ張られる感覚。スピードだけでなく、全身を恐ろしいほどのエネルギーが駆け巡る。これが夏美さんの魔法筋肉かっ。そして遙か遠くにあるように見えた僕のイメージがどんどん近づいてくる。そして、今、ついに全てのパーツが一体化した。

 いきなり世界が開けた。

 夏美さんがトレーニング中毒なのが理解できた気がした。自分の限界に近づき、超えた時、とんでもない快感が得られるのだ。もはや、そのスピードにジーウィは反応することすら敵わない。

 「うおおぉぉぉ!」

 胸元まで接近して放ったパンチは漆黒の巨人を軽々と吹き飛ばした。宙を舞う間にコーディは追いつき、すぐさま次の攻撃。まるで格闘ゲームのハメ技に掛かったかのようにジーウィは一方的な攻撃を受ける。最後に地面に叩きつけて距離を取った。

 「信じられない……あのジーウィを……」

 「だから僕たちを信じろって言っただろ、コーディ?」

 「ずいぶん時間掛かったけどね、勇司くん」

 「うっさい! このまま行くぞ!」

 「くすくす、はーい」

 再びコーディは走り出す。単純なパワーではジーウィの方が上だが、もはや戦えないほどの差はなかった。ハイスピードで接近し、攻撃を加え距離を取る。その繰り返しで徐々にダメージを与えていった。

 僕の動きを見て、徐々にイメージのレベルを上げていく夏美さん。それに応えるコーディ。そしてついにそのパワーがジーウィを凌駕し始めたのだ。一撃、一撃に僕らの想いが乗っていく。パトルさん、マカロさん、ビギの村の人たち、ミドの街の人たち、ガルフとギルトとの戦いで犠牲になった沢山の人たち……。もうすぐ終わるよ。

 ガコッ!

 コーディの渾身の一撃で、ジーウィの顔が大きく歪んだ。

 「最後はっ!」

 「これでっ!」

 手の中に集約されるエネルギー。長い夜だった。もうすぐ陽が昇る。一日で最も暗いのは夜明け前だという。深い闇の中を魔法の炎の光が輝き、周りを照らす。ゆっくりと前のめりに倒れるジーウィの腹に向けてそれを放った!

 「ファイアーショット!」

 小さな火球はその何倍もあるジーウィの身体にめり込みながら持ち上げた。宙高く浮き上がったジーウィはやがて力なく落下した。

 腹から胸にかけての装甲が剥がれ落ち、そこからは意識を失ったガルフの姿が見えた。

 「……勝った」

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