#10 ふたりだけの軍隊(06)

   *

 「うわっ、まぶしい!」

 長い間、暗い部屋に閉じ込められていた“引きこもり”には光がつらい。あまりのまぶしさで眼が開けられない。これまで魔法の光を短い間だけしか浴びてこなかった私には最高の贅沢。なんだか体中が光を喜んでいるみたいだ。

 「あ……あれ?」

 眼が慣れてくると実は太陽光でもなんでもない、薄暗い廊下であることに気付く。こんな光でもまぶしいと感じる自分に驚いた。望んでも、望んでも得られない。当たり前にある小さな物であっても、そういう境遇にいる者はいるのだ。

 ここはまだ留置所の中。周りは鉄格子で塞がれた一般牢が並んでいた。本当に私の“部屋”は特別製だったらしく、他の牢よりも圧倒的に広い。魔法を使える者をまとめて閉じ込める部屋だったようだ。

 まずは状況把握だ。耳を澄ますと、様々な音が聞こえてくる。

 (嘗めんなよ、このガキぃ!)

 あの子の声が微かに聞こえる。そして戦闘音。私は音のする方向に走り出す。ギルト、あの子は私に似ている。顔が、ではなく本質的に似ているのだ。私の……私自身の嫌な部分を濃縮したような子。双子である私たち。もしかするとこの世界に残るのは私だった可能性だってある。あの子を知れば知るほど胸が苦しくなる。

 「……こっちだ」

 戦闘音のする方に走り出す。今は自分のことを最優先に考えよう。私だって余裕がある訳ではないのだ。

 「ここね……」

 とある牢の中、壁の高い位置にある小窓から音が聞こえてくる。まぶしい光。あそここそが正真正銘の外。自由の場所なのだ。

 「ひぃぃ……」

 私の顔を見て、その牢にいる囚人が悲鳴を上げた。

 「こ……来ないでくれ、頼むっ!」

 もの凄い勢いで私から距離を取る。壁にぶつかると涙を流し始めた。しかし今は彼に構うヒマはない。二本の鉄格子を掴み、イメージを創る。両手を広げるとさしたる抵抗もなく、鉄格子は押し広げられた。

 「うわぁぁあぁぁぁあぁぁぁ!」

 男は半狂乱。壁をドンドンと叩き、泣き叫ぶ。壁を掘るように引っ掻きはじめるが、当然ビクともしない。

 「私は……」

 「うわわぁぁぁ、助けてくれ、助けてくれ、助けてくれぇぇぇぇええぇぇ……」

 私の言葉は届かない。男の爪が剥がれ壁が血に染まっていくが、壁の引っ掻きは止まらない。

 「何もしませんから」

 もう、何をしても無駄だと悟った私は、そう言って牢の中に足を踏み入れる。私が反対側に移動すると、男は最大限の距離が取れるように移動する。腰が抜けたのか、手足をバタバタと動かしながら。そして、彼の身体が鉄格子に触れた時、何かのスイッチが入ったように悲鳴を上げ、去って行った。

 ひとり、静かになった牢獄。男が脅えていたのはギルトの影なんだろうか。それとも……。

 窓の外に見える青空。あれは自由の証だ。でも……。

 『それに夏美さんが強くなっても一向に僕は構わないぜ』

 私は、勇司くんのこの言葉があるから強さを受け入れられた。でも強すぎる力に、私自身が脅えている。いや、違う。

 勇司くんに逃げられることに脅えているんだ。

 さっきのあの男の行動、あれは勇司くんが取るかもしれない行動なのだ。

 (うわぁぁぁぁー)

 コーディの叫びが聞こえる。躊躇するヒマはない。声は天井近くにある窓から聞こえる。私はひょいと飛び上がり、窓の鉄格子に掴まった。そして左手一本で身体を支え、右手で鉄格子を外しにかかる。3本ほど抜くと身体が入るほどの幅が確保できた。

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