#Final 未来への扉(終)

 うおおぉぉぉーーーー!

 扉が開くとそこは大歓声の嵐だった。

 「な、何だぁ?」

 オジーさんがポンと肩を叩く。

 「何って、お前たちはこの世界の英雄だぜ。別れの挨拶をしたい者、一目お前たちを見たいという者、まぁ大勢集まった。これだけの人数、ここに誘導するのは一苦労だったんだぜ」

 「私たちはここまで。さあ! ここからはあなたたちの足で歩いて行きなさい」

 アイハさんも隣で笑って……涙を浮かべて笑っていた。

 「本当にっ! ありがとうございました!」

 僕たちは深々と頭を下げると手を繋いで走り始めた。取り囲む、人、人、人。そしてゴールである特設スタンドまでの道は開かれていた。“モーゼの十戒”の海割りってのはこんな感じなんだろうか?

 「ナツミちゃーん、ユージちゃーんっ! またねー!」

 アモのひときわ大きな声が聞こえると、僕たちは足を止め振り返った。大きく手を振るアモに、僕たちも手を振り返す。

 「またねー!」

 夏美さんが返事を返すと、待ち構える人たちから一斉に手が差し出される。どうみてもエミティの街の人口よりも遙かに多い。そのなかにはミドの街やビギの村にいた顔も散見された。

 僕たちは顔を合わせ頷くと、左右に分かれ走り出した。そして、出された手に次々とハイタッチをした。

 「またなっ!」 パン!

 「またねー」 パン!

 「ありがとうっ!」 パン!

 「また来いよ!」 パン!

 「今度はそっちにいくからねっ!」 パン!

 「元気でな!」 パン!

 「またなぁぁーーー!」 パン!

 走りながらのハイタッチでも、これだけ数をこなすと手が痛くなってくる。でも、この痛みは一生忘れられないだろう。僕たちとこの世界の人たちの友情の証だ。

 「せーのっ!」

 僕たちに手が届かない後ろの人たちから、一斉に紙飛行機が舞い始めた。青い空に吸い込まれていく機体もいくつか見られる。見ると、子供たちが中心になって紙飛行機を折って周りに配っているようだ。僕たちは本当に沢山の笑顔に見送られているのだ。


 僕たちは、僕たちの日常に帰る。

 そして、そう遠くない未来に彼らと再会する。

 それは誰も見たことのない新しい世界。

 未来が変わることを、僕たちだけが知っている。

 そう、世界は変わる。

 人の想いと一緒に。

 辛いことがあろうと、それを乗り越え、時には受け入れ、みんなで作っていくのだ。

 そうして作られた未来は、きっと強いものになる。

 僕はそう信じる。


 そして、ついに僕たちは特設のスタンドまでたどり着いてしまった。人々の視線が僕たちに集中する。僕はコーディを高く掲げ、呪文を唱える。

 「ペナート・コーディオン!」

 突然現れる白銀の巨人にどよめきの声が上がる。

 「にーちゃん、ナツ。もう時間がない。おいらの手のひらに載って!」

 コーディは僕と夏美さんを乗せると胸の高さまであげた。領域移動はコーディの中に入る必要はない。

 「夏美さん、泣いちゃ駄目だ。顔を上げて。みんなのことを1秒でも長く見ておくんだ」

 「……はいっ」

 そういう僕も涙が止まらない。

 やがて、群衆の中からカウントダウンが始まった。

 29、28、27、26……。

 もう、ここにいられる時間はほんのわずかだ。やり残したことは……いや、これからやることが山積みだ。

 10、 9、 8……。

 みんなの声がひときわ大きくなっていく。

  5、 4、 3……。

 「みんなぁ、またねぇ!」

 夏美さんが大きな声をあげ、手を振る。大勢の人たちが手を振りかえしてくれた。

  2、 1、 0……。

 「にーちゃん、ナツ、いくよっ!」

 フッと人々の姿がかき消され、僕たちは、僕たちの日常に戻っていく。“未来”という名の日常に。


 パーンという甲高い破裂音が、今、ひとつの物語の終結を告げた。

 そしてその音は、その物語自身の始まりと、その物語に続く新たなる物語の始まりをも告げていた。


 - 白銀の巨人 コーディオンの嘘 完 -

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白銀の巨人 コーディオンの嘘 えまのん @emanon

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