#08 赤キ魔女(09)
コーディは突然動き出し、私の元に歩み寄った。そして手のひらを私の前に降ろした。
「私が何とかします! みなさんは少しでも高いところに避難してください!」
「無茶じゃ! その身体では」
ザドさんの制止を振り切って私はコーディに搭乗した。
「水の力を嘗めないでくださいっ! 急いでっ!」
その言葉にザドさんが反応した。そして「無茶をするんじゃないぞ」と言い残して、避難誘導を始めた。
私はコーディの椅子に座り、勇司くんがやったのと同じ手順を踏む。やった! 動く。私と勇司くんを同時に登録したのはこういった事態を予想していたの、コーディ? 身体を動かすのは辛いけど、コーディの操縦に必要なのは精神力。だから動かすことができる。私はダムの方向に向けて走り始めた。
「ナツ……、君はボロボロじゃないか」
コーディが心配そうな声をあげる。
「川までたどり着けば回復できるわよ」
「馬鹿言うなよ! もうナツは限界を超えている」
そうかもしれない。でも私は競泳で記録を伸ばすために限界との戦いをした経験がある。それに……。
「このままじゃ、みんなが……勇司くんが死んじゃう!」
私はポケットの中に手を入れ、“お守り”に触れる。お願い……私を、私たちを守って。そして、また私たちを巡り合わせて。
「わかったよ……ナツ」
「ありがとう! コーディ」
閉ざされているべき城壁が破壊されている。流れ込む水がそのまま流れ込み、被害を拡大させるための物だ。壊れた城壁からは一直線に続く川とその先のダムが丸見えだ。私は城壁を抜け外に飛び出した。
すでにダムに陣取るルガンとリネットたちの戦いが始まっていた。巨大なギガントをぶら下げたままのリネットは機動性を失っており、ロングレンジで撃ち落とされていた。リネットの攻撃は強力で当たりさえすれば一撃で致命的なダメージを与えている。
リネットたちは作戦を変え、かなり離れた場所にナーサックを降ろし始めた。ナーサックはそこから走ってダムに向かうつもりだ。これなら追いつける! 私はコーディのスピードを上げた。
ナーサックは猿を思わせるような長い腕を使い、水しぶきを上げながら走る。その後ろを追いかけるコーディ。水があれば、今の私なら体力を回復しながら攻撃することができる!
「ファイアーショット!」
コーディの手のひらから火球が飛んでいく。ナーサックは一撃で破壊できた。
「どうやらこいつは氷属性みたいだ。炎の魔法を使うナツとは相性が良い!」
ナーサックは足が速い。コーディで追いつくのは辛いが、後ろからファイアーショットをぶつけることは可能だ。火球の威力を弱め、当たる寸前にコースを変え横に吹き飛ばす。その隙にコーディが追い抜く。敵よりも早くダムに到着するのが最優先だ。
ダム側からの攻撃も始まった。ルガンの攻撃が命中し、先頭を走るナーサックから倒され始めた。それでも奴らは一目散にダムを目指している。でも、このペースならなんとかダムにたどり着き、死守することができる。そう思い始めた瞬間だった。ナーサックを降ろし、機動力を取り戻したリネットがダムに直接攻撃を始めた。突然、攻撃目標が分散したルガンは混乱し始めた。一度フォーメーションをくずされたルガンは一気に劣勢に追い込まれる。私もナーサックを倒しながら進むが、まだまだダムまでは遠い。
「やめてー!」
私の叫びなど奴らには届きはしない。そして先頭を走るナーサックとの距離が離れ始めた。
「……っく。まずいっ」
気合いだけで走っているけれど、もう心も身体もボロボロ。自分でも走っているのが不思議なくらいだ。でも……でも。
「これじゃ、勇司くんを救った意味がないじゃないっ!」
「ナツ! 落ち着いて!」
次第に後ろからナーサックが追撃してきた。腕に、首に絡みついてくる。
「邪魔しないでっ! 放してっ!」
力ずくで引き離し、魔法弾を撃って迎撃し続ける。しかし、そのたびに走るスピードが落ちてしまう。
「ナツ、ナツ! 慌てるな!」
もはやコーディの声は届いていなかった。私の意識は遙か遠くにあるダムにあった。そろそろ先頭を走るナーサックは到達しようとしている。
「このままじゃ間に合わないっ!」
その時、私の足がガシッと捕まれる。バランスを失い、水の中に倒されるコーディ。
「しまったっ!」
そして上から次々とナーサックが覆い被さっていく。その隙間から最後のルガンが落ちていくのが見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます