#06 ホーム(05)

 夏美さんの告白を経て、僕たちの団結力は上がったように思う。何より“生き抜く”という共通意識が産まれた。

 アモが眠ると毎夜、僕らは話し合いを重ねた。何しろ夏美さんの能力は僕らにとって大きな武器だ。これを伸ばせるだけ伸ばし、僕らがそれを理解するのが重要だと考えた。これはスポーツの世界でも同じなのだけど、精神力で身体能力は大きく変わる。夏美さんの場合、魔法で肉体を強化しているのだから、その重要度は比較にならない。どうすれば心を強く持てるか、まずはそこから始めた。

 また、妹を名乗るギルトの存在は、夏美さんにとって大きな悩みであるはずだ。彼女なりに答えを出しているように感じるが、僕はその答えを聞くのが怖い。僕と夏美さんに生まれそうな距離を埋めてくれるのが、アモの笑顔だった。“子はかすがい”などと言うには僕らは若すぎるのだけど。最も大きな悲しみを抱えているはずなのに、今笑顔でいることが自分の仕事だと理解しているアモが一番の大人なのかもしれない。

 反面、コーディをギルトたちが探しているのがほぼ確定したため、身体の展開が事実上使えなくなった。ギルトたちもあれだけの戦力差を覆されたのだから、今度は策を練ってくるだろう。何しろこちらは戦闘の素人だ。本格的な戦いになったら勝てる気がしない。


 「ゆーじちゃん! こっちこっち!」

 「あんまし大声だすな、アモ!」

 「ここまで来たら大丈夫だよー」

 くろにゃあの後を元気に追いかけるアモ。彼女が言うには、くろにゃあはありとあらゆる抜け道を知っているのだとか。僕らが目指すミドの街へは、ギルトたちに見つからないようにかなりの大回りをしている。その上、慎重に進んでいったのだからペースはかなり遅い。

 「荷物重そうだよね、持とうか?」

 「いやっ! これは僕の仕事だ。夏美さんはアモとくろにゃあの世話を。あいつら眼ぇ離すとすぐにどっか行っちゃうからな」

 「いつでも手伝うから言ってね」

 そう言い残して夏美さんはアモを追いかけていった。多分、今の彼女の方が多くの荷物を持てるのだろうが、僕にも意地がある。

 「おいら、この状態でも荷物ぐらい運べるぞ」

 「運べるかもしれんが、お前はピョンピョン跳ねるから荷物が壊されちまうよ、コーディ」

 僕とコーディがくだらない会話をしながら後を追っていくと、先行する二人の歓声が聞こえてきた。

 「勇司くーん、早く、早くー!」

 「こっち、こっち。あはは」

 二人が待つところは切り立った高台だった。やっとの思いで追いつくと、僕はその場に座り込んでしまった。

 「お疲れ様。ほら、あれがミドの街だって」

 夏美さんが指さす方を見ると、塀で囲まれた大きな街があった。街というより城砦という方が相応しいかもしれない。それは巨大でありながら、何かに脅えているようにも見えた。

 「ほら、あれがすごいんだよ」

 街の真横を流れる川の上流をアモが指さす。

 「あれは……ダムか?」

 「うん! あれでね、夜もあっかるいの」

 「え? 電気があるのか、この街は!」

 「んー、よく分かんない。ザドのおじちゃんに聞いて」

 会話を続けていると、ダムの放水が始まった。木でできた小さなダムだけど、僕らの世界にあるのと原理は変わらないのかもしれない。距離も短いのでこの街のためだけに作られたダムかもしれない。……それにしても、水の音が心地よい。そんな僕を夏美さんが覗き込む。

 「ねえ、勇司くん。電気があるならスマホも修理できるかも知れないわね」

 「うーん、直っても通話はできそうにないしなぁ」

 「でも、何か分かるかもしれないよ」

 「そうだな、今は何でも良いから情報が欲しいし。じゃあ、夕方になるまでここで休憩していこうか?」

 「どうして? ここまで来たらすぐだよ」

 「いや、駄目だ。明るいと目立っちゃう。今、夏美さんの姿はあまり見られたくない……」

 「あっ……そうだね。ギルトと間違われて揉めると困るものね」

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