#08 赤キ魔女(08)
「あ……」
起き上がろうとした私だけど身体に力が入らず、また勇司くんの上に覆い被さる形となった。彼の呼吸音が聞こえる。ああ、生きている。あらためて実感した。そう言えば、彼の顔をこんな真面目に見たことなかったな。へぇ、結構まつ毛長いんだ。眠る彼の頭を私は優しく撫でた。身長差があるので、普段なかなかできないことでもあるのだ。
「うぉっほん。お楽しみのところよろしいかな?」
ザドさんだ。というか、周りにたくさん人がいるんだった。思わず顔が赤くなる。
「す、すみません。身体に力が入らなくて」
私がそう言うとアイハさんが起こしてくれた。勇司くんは救護の人たちに運ばれていった。ザドさんが声をかけてくれる。
「見てたぞい。よくやったな。元気になったら話を聞かせてくれんか?」
「はい、喜んで。そう言えば、ザドさんの蔵書は?」
「残念ながら半分以上が持っていかれてしまった。でも、みな、よくやってくれたよ。ありがとう」
ザドさんが悔しそうな表情を浮かべながらも、優しい言葉をかける。色々と複雑なんだろうとは思う。
「そういえば、ギルトたちは?」
「撤退したようじゃ。こいつのおかげじゃな」
そう言ってザドさんはコーディを指さした。コーディは直立不動で動かない。周りに人が集まってきていちいち答えるのが面倒になったのだろうか。そしてエミティの人たちはロープで拘束され、リーダーやオジーさんたちによる尋問を受けている。
「終わったのね……」
「とりあえずな。人的被害が少なかったのが幸いじゃ」
すると人並みを押しのけて、サーディアンのふたり組が私の前にやってきた。アドちゃんとクドちゃんだ。
「ミちゃんにお礼を言いたいって、クドが」
グルゥゥゥ。
しおらしい声をあげるクドちゃんの言っていることは分からなかったけれど、気持ちは伝わってきた。
「良かったわね、無事で。そうだ! くろにゃあは?」
「ああ。あの黒い子猫ね。大丈夫。身体が軽いのが幸いしたわね。怪我はしたけど大丈夫。今、アモが看病しているわよ」
そう言った後、アドちゃんの表情が変わった。
「どうしたの?」
「いえね、ギルトの言った言葉が気になるのよ。ギルトはギガントの名前を3つ言ったわ。ひとつはそこにいる“リネット”、もうひとつはギルト自身が乗ってきた“ランペット”。でも、どう見ても“ナーサック”に相当する物がないの。ギルトは言ったわ。『これからお前たちは、お前たちの作ったものによって滅ぼされる。案内はもうひとつの新型ギガント・“ナーサック”だ』と」
「ザドさんっ! そう言えばこの街は」
「ああ、門を破壊され我々は閉じ込められておる。つまりこの街ごと破壊するつもり。我々の作った物でそれほどの力を持つ物と言えばルガンじゃが、ほぼ破壊されてしまった。そもそも、奴らの新型ギガントなら破壊できない話じゃなかろうて……。まさか!」
ザドさんが何かに気付いた。タイミングを同じくしてリーダーがザドさんの元に報告に来る。
「ザドさん! 大変です。奴らの目標が分かりました」
「ダムを破壊するつもりなのじゃな?」
「……はい」
全員の視線がダムの方向に向いた。
「あ……あれは」
「リネット。足に何かがぶら下がっているぞ」
「ギガントだ。見たことのないギガントだ」
「と、するとあれがナーサック」
人々がざわめき始めた。あのギガントを使ってダムを破壊するつもりなのだ。もうミドの街に対抗できる力は残っていない。勇司くんはまだ眼を覚まさない。なら、私ひとりでやるしかない!
「コーディ、私をあなたに乗せて!」
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