#08 赤キ魔女(04)

 ハンドルを切って川の中から森にコースを変える。さすがに川の上を走り続けると目立ち過ぎる。翼竜がいる限り、見つかったら即アウトだ。森の中は身を隠すことはできるが、外の様子も分からない。たまに聞こえる爆発音が僕らの気持ちをはやらせる。

 「もうすぐ森を抜けます」

 「そこで一旦エアバイクを停めてくれんか?」

 森の出口で僕らは状況を確認する。いくつかの大きな煙が立ち上っているのが見えるが、翼竜の飛ぶ姿は見えない。ここからはザドさんの家が見えないが、時折聞こえる爆発音がそちらから発生しているように思える。

 「よし、川の上を渡ってあそこから侵入するぞい!」

 川の真上にある城壁が大きく破壊されていた。侵入口としては最短だが、危険度も高い。

 「いざとなったらコーディに頼るしかあるまい。早く! 街の者たちが心配なのじゃ」

 いつものんびりした口調のザドさんに焦りが見える。僕の胸に戻ったコーディは何も言わない。

 「分かりました。危険ですが行きましょう」

 僕が答えると、ザドさんは感謝の言葉を繰り返した。

 「行きますよ!」

 助走を付けてエアバイクが飛び出す。フルスピードで川の上を走る。加速すると水しぶきが高く上がり目立ってしまう。そのギリギリの頃合いで僕らは走った。そして、城壁が近づくと一気にジャンプ! あっさりと侵入に成功した。

 「あれ?」

 僕はエアバイクを停め、街の様子を観察する。予想に反して人の姿が見当たらないのだ。街も思ったよりも破壊されておらず、立ち上る煙も誘導のために起こしたといった感じだ。敵襲にあったように見えない。むしろ、わざと城壁だけを破壊したように思える位だ。

 「ユージ、中央広場に行け!」

 「え? ザドさんの家に行くんじゃないんですか?」

 「いや、儂が行っても役に立たん。まずは情報じゃ。争った様子も外に逃げた様子もない。それならば多くの人が集まれる場所におるじゃろう」

 「夏美さんが紙飛行機飛ばしてた所ですよね?」

 「そうじゃ! 安全に、戦闘を避けて、急いでな!」

 「ホントに無茶言うなぁ」

 街に人がいないから、エアバイクの移動はあっという間だ。ザドさんの予想通り、中央広場に大勢の人が集まっていた。その中には多数のけが人がいて、手当を受けている人も少なくなかった。いずれにせよ、この異常事態に様々な手が足りていないのは一目瞭然であった。

 「あ、ザドさん!」

 「どこ行ってたんですか」

 疲れ切っていた人々が立ち上がり、ザドさんの元に駆け寄る。

 「すまん、すまん。まずは状況を教えてくれんか」

 ザドさんの元に続々と情報が集まり、それに対して瞬時に指示が出される。場の空気が変わりつつあった。

 「この街にいるルガンは全滅、か。ギルトがここに現れたのはオトリだったのじゃろう。儂らをこの街に閉じ込めるための。しかし、なぜそんな面倒なことをして蔵書を狙うのじゃ? もっと簡単な方法もあるだろうに。……そう言えばナツミはどうしたんじゃ?」

 「はっ! 魔力が使える者と一緒にザドさん宅の警護に向かいました」

 「え!」

 僕はその報告に血の気が引いた。彼女は運動能力は高いが、戦いに関する知識はない。どちらかというと感情が優先されるタイプだ。強力な魔法が使えるようになった分、無茶をする可能性が高い。僕は慌ててエアバイクに飛び乗った。

 「待て、ユージ! お前が行っても役には立たんぞ。任せておけ」

 「大丈夫です。僕には頼もしい相棒がいますからっ!」

 僕は警告を無視してザドさんの家に向かった。

 「にーちゃん、あの翼竜はおいらも見たことないよ」

 「報告の人が新型のリネットって言ってたろ。ザドさんの読みが正しければ蔵書の運搬に使われているはずだ。それに建物が乱立する街の中では翼竜は不利だ。なんとかなるさ」

 「……なんか、にーちゃんらしくないなぁ」

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