#06 ホーム(04)
ふわりと、まるで妖精のごとく夏美さんは着地した。あまりのできごとに僕は言葉を失った。
「ナツミちゃん、すごいすごい!」
興奮のあまり大声を出してアモは夏美さんに抱きついた。
「あ、ごめんね、アモちゃん。起こしちゃったね」
「そんなのいいの! ナツミちゃん、こんなことできたんだ!」
「なるほどねぇ、ナツ。君の仮説は正しいと言わざるを得ない」
コーディが感心したように言う。続けて質問をぶつける。
「質問しても良いかい。増したのはジャンプ力だけかい? それにその力を使うのには水が必要なのか?」
「ううん、身体能力全体が上がってる。力もあるし、スタミナも。あと視力、聴力も。それに回復も早いみたい。わずかな睡眠時間で充分だもの。あと……外部の水はなくても通常よりも身体能力をあげることはできるわ。だから、外部の水はあればあるだけ能力を上げることができるみたい。限度はあるけど」
「向こうの世界でもこんなことができたのかい?」
「うーん、速く泳ぐことはできたけど、その程度ね」
「間違いないね。ナツは魔力と水を使って肉体強化をできる唯一の人間なんだ。魔力のない世界で、強い水の魔力を持った人間が大量の水に浸かって、強くなりたいと願っていたから生まれた奇跡だね」
「ナツミちゃん、すごい! かっこいい!」
はしゃぐアモの頭を撫でながら、夏美さんはこちらをちらりと見た。
「勇司……くん?」
薄ぼんやりと感じていた彼女への疑問は解決した。しかし、それは新たなる問題を生み出したことに僕は気付いてしまった。
彼女がギルトと姉妹である可能性は非常に高い。そして、互いに強い魔力を使えるのだから、この世界の出身である可能性が出てきた訳だ。
果たして、夏美さんはどちらの世界を選択するんだ?
これまで僕らは元の世界に戻ることを目標に行動してきた。しかし彼女がこの世界の生まれなら積極的に返る理由はなくなるかもしれない。そして今は自分を姉のように慕うアモがいる。
考え方を変えるとこの世界では夏美さんもアモもギルトに狙われているようだ。可能なら三人で向こうの世界に行くのが正解のような気もする。しかしただの中学生である僕らがアモを連れて帰っても生活する場がない。
……僕はどうしたらいいんだ?
僕が迷っているのを夏美さんは違う受け取り方をしたようだ。
「やっぱり、こんな化け物みたいな女の子、嫌だよ……ね」
「え? 違う違う。今の話聞いて色々と合点がいったなぁって。ほら、コーディから君が降りた時、魔法が使えないだけでなく、パワーもだいぶ落ちた気がしたんだ。それに夏美さんは元々トップアスリートだしね。すごい努力してるのを僕は見てるし、それを否定するようなことはしないさ。僕みたいな凡人にはとても追いつけな……」
「そんなことない!」
僕がちょっと軽口を叩こうとした時、夏美さんが突然大声を出した。
「……そんなことないよ、勇司くん。私なんて弱い人間だよ。一度は死んでも良いと思った。そんな時、現れたのが勇司くんだった。あの切り立った崖を駆け上がりながら勇司くん、あなた何て言ったか覚えてる?」
あの時? ……ああ、僕と夏美さんがであった時か。コーディの力を借りて崖を駆け上がり、落ち行く夏美さんを助けた。その時叫んだ言葉……。
「あきらめるな……か」
「そう。私、あの言葉のおかげで今、生きてるんだよ」
アモが心配そうな顔で見上げている。僕らがケンカしたのと勘違いしているようだ。僕はアモの頭を軽く撫でた。
「そうだな。あきらめちゃいけないな、色々と。それに夏美さんが強くなっても一向に僕は構わないぜ。ただ……」
「ただ?」
「ギルトみたいに筋骨隆々になるのだけは勘弁してくれ」
ようやく長い夜が明けたようだ。朝日が僕らの顔を照らす。
「私もあれはないと思う」
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