#12 あがき(09)

 ルティ……姉さんはアタイを抱きしめてくれた。背中に回る手が何だか暖かい……。身体を覆っていた倦怠感がスッと抜けていくようだ。なぜだろう、アタイは彼女の行為に逆らうことができずにいた。

 「……あ、ありがとう……」

 アタイの言葉にルティ姉さんの身体が強ばった。数秒の沈黙の後、突然身体を離し、胸倉を掴んできた。

 「私はっ! 私は、あんたのやったことは許せない。絶対にっ! 人々の命をもてあそんだこと、絶対に許さない。でもっ、でも! このまま死ぬことはもっと許せない。あんたは志半ばで倒れた人たちの責任を負うべきなのよ! 生きなさい! 生きて、生きて、そして償うの。それがあなたの負った罪。逃げる方が、死ぬ方があなたにとって楽なこと。でも……それは……許さない。私が是対に許さないからっ!」

 鬼のような形相で涙を浮かべる姉さん。でも不思議なことに恐怖心は感じられない。しかし、そこから眼を反らすこともできなかった。そしてアタイには答えるべき言葉も見つからなかった。

 「まあ、いいわ。まずはここから脱出しないと。そこ、どきなさい」

 ルティはアタイから強引に椅子を奪い取った。

 「……流石にこれはちょっとね」

 そう言って、服の中から薄い本のような物を取り出した。そしてビリビリとページ破り、それで吐瀉物を拭い始めた。

 「あんた、いつもそんな物を持ち歩いているのか?」

 「あ、これはこっそり捨てようと……そんなことあなたに関係ないでしょ!」

 アタイが指摘すると顔を真っ赤にして訳の分からない言い訳を始めた。こちらとしてはどうでも良いことなのだが。

 「あっ……」

 彼女が掃除している間に薄い本が外に流れていってしまった。無重力というのは、ちょっとした力で物が飛んでいってしまう。結構、ドジだな、この人。

 「まぁいいか」

 そう言って、ルティはジーウィをいじり始めた。かなり匂うはずだが、彼女は文句一つ言わない。しばらくすると、ジーウィが反応し始める。

 「何とか動きそうね。へぇ、眼を閉じなくて良いんだ。床もあるじゃない。コーディって何か変わってるんじゃないの?」

 言っていることの半分は分からないが、ジーウィがアタイを認めなくなったことだけは理解できた。

 「これからどうするんだよ、あんた」

 ルティは前方の光の帯を指さした。

 「あれが“寄せ集めの世界”。私たちはこれからあそこに戻るのよ 」

 彼女の指さした先から、あの白いコーディオンが現れた。胸の扉は開けっ放しで、操縦者の様子が見えるようになっている。

 「勇司くーん、こっちは何とか動けるみたい」

 すると、コーディオンに乗った少年が応えてきた。

 「そうか、急ごう。時間がない」

 コーディオンがジーウィの手を取り、光の帯に向かった。

 「ここで良いのか、コーディ?」

 「うん、この辺で良いはず」

 コーディオンが腕を伸ばすとバチッと弾かれてしまう。

 「なっ!」

 「まずい、にーちゃん。時間が掛かりすぎた。領域に拒否されてる」

 「どういうことだ?」

 「ジーウィが開けた穴が塞がっちゃったんだ。元々暴走で開けた穴だから、不安定だったてのもあるんだろうけど」

 「どうすれば良いんだ?」

 「おいらは偶然戻れただけで、方法は分からないんだ」

 ちっとも状況が理解できないアタイはルティに聞いてみた。

 「何がどうしたんだ?」

 「……私たち、領域の狭間で迷子になっちゃったのよ。元の世界に戻れそうにない」

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