#08 赤キ魔女(03)
*
「ザドさん! しっかり腰に掴まってください!」
「本気でダムの壁を下るのか?」
「街がギガントに襲われてるんですよ。コーディ、ザドさんの背中に取り付いて万が一の時に対応してくれ!」
「あいよ!」
コーディは二本の紐を伸ばし、ザドさんに取り付いた。
小さなダムとはいえ結構高い。ダムの壁だってほぼ垂直だ。通常ならこんな所をぶっつけ本番で下ろうなどとは僕だって思わない。ただ、胸騒ぎがするのだ。それも異常に。
「じゃあ、行きますよ!」
エアバイクのスロットルを噴かし、ダムの縁から飛び立つ。
「左のスロットルを捻るんじゃあ!」
足でブレーキをかけながら、左手のスロットルを操作。捻る角度に合わせてダムの壁との距離が変化する。しかし……。
「ひぃぃぃぃぃ!」
「にーちゃん、速すぎる!」
エアバイクはダムの壁面に沿って急降下。これではただ壁に激突せずに自由落下しているようなものだ。
「くそっ!」
僕は身体を起こし、体重移動でエアバイクを持ち上げる。しめた! スピードが少し緩んできた。左手のスロットルを徐々に緩めていくと車体が持ち上がる感覚と共に速度が落ちていく。早くも水面が近づいてきた。まだ減速は不十分だ。
「ザドさん、しっかり掴まって! コーディ頼む!」
「えぇいっ!」
ザドさんの背中に取り付いたコーディがジャンプする。ザドさんが、僕が、エアバイクが大きく引き上げられ速度が大幅に落ちる。それとタイミングを合わせて一気にスロットルを反対側にまで捻ると、エアバイクは宙に舞い上がった。起き上がった車体のまま水面に着水。
バシャァァァァ!
後輪が水面に深く食い込み、両側に大きく水しぶきがあがる。
「まずいっ!」
僕は一気に右手のスロットルを捻るとエアバイクが加速し、水面を大きく跳ね上がる。今度は左手のスロットルを操作し、高さを調整。
バシャ! バシャ……バシャ、バシャ。
まるで水切りの小石のように水面を数回跳ね、やがてエアバイクは安定した。
「もう、大丈夫ですよ、ザドさん」
「……ったく、お前さんは無茶するのう。死ぬかと思ったわい」
「それよりあれを見てください!」
僕が指さすと、街に配置されていたルガンがちょうど破壊される所だった。
「見たことないギガントじゃな。それにしてもルガンの攻撃をあっさりとかわすとは……」
見たことのない翼竜は、ルガンを沈黙させると一直線にある場所を目指していた。
「ザドさん! もしかして!」
「ああ、狙いは儂の家のようじゃな。すると蔵書が目的なのかもしれんな」
「蔵書……ですか?」
「ああ、儂が集めた様々な書籍じゃ。技術書や古文書、歴史書など、まだ解析が終わっていない物もあるが、多層世界の一端があそこにあるといって過言ではない」
「じゃあ、急ぎますよ!」
「待て待て、無茶するんじゃないぞ。今だって川が深かったから助かったようなものの、浅瀬だったら激突しとったぞ」
「水の力、嘗めちゃいけませんよ。あのダムは、あれだけ大量の水を放水してるじゃないですか。それなら必ず川底は削られてるはずですから」
「ほう、さすがは“水の領域”の人間ってところかのう」
妙な感心の仕方をするザドさんだった。しかし、エアバイクのスピードを上げると大きな悲鳴をあげた。
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