#08 赤キ魔女(02)
「甘いんだよ!」
飛び込むくろにゃあにギルトの腕が振るわれる。
ブン!
その太い腕から発せられるパワーで周りの霧が吹き飛ばされる。その隙間から覗くギルトの顔は……笑ってる。まるで風圧で押し戻されるようにくろにゃあが弾き飛ばされた。その隙をうかがうように、サスマタを持った男が突進する。彼は取り囲む男の中で一、二を争う逞しい身体をしていた。ギルトはそれを一瞥したまま、姿勢を変えない。ただ足に力を入れるだけ。それだけなのに地面が揺れた気がした。
ドン!
もの凄い音を立ててギルトの脇腹にサスマタがぶち当たる。本来ならバランスを崩し、相手の身体の自由を奪うはずの武器だ。だがギルトの身体はビクともしない。サスマタを持つ男の表情に恐怖が浮かぶ。間髪を置かず、ギルトは片手でサスマタを押し返し、男の身体ごと宙に持ち上げた。そして紙くずのように放り投げた。
「バ、バケモノか……」
思わず武器を持った男たちから恐怖の声が漏れる。それはそうだろう。自分よりも大きな男の攻撃を楽々と受け止め、片手で放り投げる。魔法力にしても集中の時間なしに強力な氷球を打ち出してみせる。その威力は集中した私のファイアーショットと同等。その前に別の火球を消し飛ばした後でである。しかも、これらの行動は片手でサーディアンの子供を吊り下げたまま一歩も動いていないのである。
「バケモノ……心地良いねぇ。それは圧倒的強者に向けられる畏怖の言葉だよ。お前たちはアタイには敵わない。弱者は強者に従うべきなのさ。しっかしこれだけ集まって、こんな可愛い女の子ひとりに手も足もでないなんて情けない。ねぇ、お姉様」
自分と同じ顔に言われるとこれほどムカつく言葉もそうはない。凍り付くその場でただひとり、アモちゃんだけが倒れ込んだままのくろにゃあの元に走っていった。抱き上げると彼女の顔に安堵の表情が浮かぶ。
そして、ギルトの視線が私に固定される。
「そろそろ時間か。そうそう、お兄様から伝言があったんだ。『失望した。弱いお前に価値はない』だって。あはははははは!」
お兄様? 聞いたことのない単語に動揺する私。と、同時に街が大きく揺れた。高笑いするギルトの声に合わせて、街のあちこちで爆発が一斉に起こったのだ。
「ホント、あんたら馬鹿だよね。アタイひとりにこんな人数出しちゃって。おかげで警備がガラガラで工作しやすいのなんの。こいつは返すよ」
クドちゃんをひょいと私の眼の前に投げ捨てた。
アァーーー。
空を見ると、数匹の翼竜が街に迫ってくる。ルネットと違うそれは怪声をあげながら迎撃魔法の嵐を楽々とすり抜けて行く。ギルトは腰のポーチからカプセルらしきものをむんずと掴み、バリバリとかみ砕きながら言った。
「新型のギガント・リネットだよ。ルネットよりも素早く、強い。お前らのギガントの攻撃なぞ、簡単に避けてしまうさ。お、いいねぇ、その表情。もう一つ教えてやろう。これからお前たちは、お前たちの作ったものによって滅ぼされるのさ。幸せだろう? 案内はもうひとつの新型ギガント・ナーサックだ。楽しみにしてな」
ギルトは笑いながら背を向けた。そしてゆっくりと歩き出す。
「くそっ!」
ひとりの男がギルトに襲いかかろうと剣を抜こうとしたその瞬間、男の動きが静止した。そして、その体制のままバランスを崩し、地面に倒れ込むと粉々に砕け散った。
ギルトの魔法だ。
一瞬で人ひとりを凍らせる力。あまりにも恐ろしい光景にその場にいる誰もが悲鳴すら上げられずにいた。声を出したら、動いたら、次は自分の番だ。誰もがそう感じていた。
「どけっ!」
包囲する輪があっさりと解かれ、ギルトはその場を後にした。
「来い! ランペット!」
ギルトが叫ぶと上空から新たなギガントが飛んでくる。それは背中から羽の生えた黒い人型をしていた。ギルトの前にひざまずくと手のひらを差し出した。その上にギルトが乗ると黒い身体が赤黒く変化していく。
「アタイのネオギガント・ランペットは最強さ。コーディオンとヤリたかったけど、どうやらその機会は失われたままになりそうで残念。それではさようなら、お姉様」
魔女の合図で、天使は黒い翼を広げ飛び去ってしまった。
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