#12 あがき(10)

 それを聞いて、アタイは笑いがこみ上げてきた。

 「あはは。それじゃあ、アタイがいくら生きても意味がないじゃないか。それが運命なんだよ」

 「うるさいわね。運命なんて単なる自分の生き様よ。そんな言葉に頼るようだから私に負けたのよ」

 「ぐっ……」

 返す言葉がない。ルティは何やらずっと操作している。

 「こうか……。なるほど、コーディとは違うのね」

 ルティがジーウィの腕を光の帯に向けると、そのままスッと入っていった。

 「あ、勇司くん。ジーウィなら入れるみたい! あっ!」

 肘辺りまでは入るのだが、それよりも奥に入れようとするとやはりバチッと弾かれてしまう。

 「やっぱり駄目なのか……」

 ルティの声のトーンが落ちる。少年はしばらく考え込んだ後、ひとつの提案をしてきた。

 「夏美さん、小さなファイアーショットを帯に向けて撃ってみてくれないか?」

 「え? いいけど」

 ルティがポンと小さな火球を光の帯に向けて撃ちだした。すると弾かれることなく、吸い込まれていった。

 「そうか。コーディの記憶がないのはこのせいなのか」

 「え? どういうこと?」

 推論だけど、と前置きして少年が語り始めた。

 「ザドさんが言ってただろ? 『無生物は時空に弾かれることはない』と。コーディは自分の意識を持っているから弾かれる。ジーウィは意思を持っていないから、触れることができる。ある程度までしか通らないのは夏美さんたちが乗っているからだろう」

 「つまり、私たちが死なないと通れないってこと?」

 「たぶんね。コーディが記憶を失っていたのは、自分を仮死状態にして通り抜けたんだろう。実際には記憶をなくしたというよりも、記憶が戻るようにプログラミングしたんじゃないかな?」

 「……そうなのかな? それならおいらって凄いじゃん!」

 「……そうか。これならいけるかも! お願い、ギルト、力を貸して」

 ルティからある提案がなされた。

 「馬鹿か! お前。上手くいく訳ないだろう?」

 アタイは呆れた。こんな馬鹿な提案をする奴を見たことがない。しかし、世の中にはもっとおかしいのが存在するのだ。ルティのパートナーの少年だ。

 「なるほど。やる価値はあるかもな」

 「お前も馬鹿か!」

 「そんなことはないわ。私たちはあなたを信じる」

 「ぐっ……」

 ルティはニッと笑った。まるで子供のように。姉妹であるのに、互いをほとんど知らないアタイたち。でも、その表情には何か懐かしさが感じられた。そしてルティも少年もまるで打ち合わせてあったかのように準備を始める。

 「それに今の私たちには他に方法がないもの。恐らく時間もない。やってもやらなくても結果が同じならやらないと後悔する」

 コーディオンが光の帯の前に移動し、ジーウィがその前に立った。そして数回のシミュレーションを行った。

 「じゃあ、やってくれ! ギルト」

 コーディオンの少年が叫ぶ。そして、ルティもアタイの眼を見て頷く。やるしかないか。ひとつため息ついて、アタイはルティの手に自分の手を重ねる。

 「絶対凍結ッ!」

 アタイの手からルティの手を通し魔力が伝わり、ジーウィが増幅し、コーディオンにぶつける。一瞬でコーディオンと少年は凍り付く。それを見届けると、ジーウィが背を向ける。

 「ファイアーボールッ!」

 ルティが巨大な火球を撃ちだした。飛びながらそれは成長を続け、ジーウィとコーディオンを丸々と飲み込むほどの大きさになった。

 「戻れ!」

 ルティの言葉に従い、火球はゆっくりと速度を落とし、やがてこちらに向かってきた。ルティはゆっくりとジーウィを移動させた。そして、そっと凍てついたコーディオンを抱きしめた。アタイの絶対凍結は強力だ。たちまちジーウィでさえも凍りつき始める。

 「今よっ! ギルト!」

 「知らねーぞ、絶対凍結ッ!」

 自分で自分に凍結魔法をかける日がくるとは夢にも思わなかった。うまくいけば助かるが、失敗したら……そうか、このままか。

 一足先に凍り付くルティの顔は笑っていた。

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