#05 白銀のコーディオン(01)

 地図がある旅は楽だ。目標がハッキリしている。それに多少なりとも道具が増えた。新しい目標のミドの街までは結構あるけれど、これまでよりは簡単そうな気がしてきた。

 「にーちゃん、もうアレいけるよ」

 「アレって何?」

 夏美さんが疑問の声をあげる。まだ泣きはらした眼が赤いけれど、気持ちは切り替えてくれている。

 「実はね、夏美さん……」

 僕が話そうとすると、夏美さんが「きゃっ」と声を上げた。足下を見ると見慣れた小動物がまとわりついていた。

 「あら! くろにゃあじゃないの。どうしたの? 見送りに来てくれたの?」

 抱き上げるとくろにゃあは、にゃあ、にゃあと騒ぎ始めた。

 「ごめんね、連れて行く訳にはいかないの。アモちゃんによろしくね」

 にゃあ、にゃ、にゃ、にあ、うああぁ。

 「何か様子が変じゃないか?」

 くろにゃあが夏美さんの手を離れると眼の前に立ちはだかり、ここは通さないとばかりにうなり声をあげる。

 「ちょっとあれを見て!」

 僕たちが後にした村の方を見ると、数匹のルネットと思わしき翼竜が向かっている。そして爆音と共に黒い煙が上がった。

 「あれは……ルネット? あんなものが村を襲っているの?」

 「まさか軍の連中はルネットを道具として使いこなしているんじゃないか? そうすると奴らの捜し物は……コーディ」

 「ええ、おいら?」

 「ああ。捜し物をするのにあんな巨大な物を持ちだしてどうするんだ。同等のサイズの物を探していると考えるのが筋だろう」

 考えてみれば当然だ。軍が僕らなんかに価値を見いだす可能性よりも、コーディの方が高いに決まっている。

 「パトルさんにはコーディの存在を教えてなかったから可能性に気付かなかったのね」

 「そんな……。おいらのせいで……」

 「いや、まだ間に合うさ。コーディ、アレはイケるんだな?」

 「うん!」

 「じゃあ、いくぞっ!」

 僕は宝石コーディを高々と掲げ、コーディ展開の呪文を唱える。

 「ペナート・コーディオン!」

 宝石が強く輝き、僕の前にコーディの身体が展開される。

 「よし、夏美さん。コーディに乗って!」

 夏美さんは乗り込みながら疑問を呈する。

 「でも、この前ルネット一体に苦戦したじゃない。今度は沢山いるみたいだよ」

 乗り込んだ時の習慣でふたりともバッグをロッカーに投げ入れる。

 「今度は秘策があるのさ」

 にあ。

 くろにゃあも飛び込んできて夏美さんの腕の中に収まった。と、同時にコーディが胸の扉を閉じる。

 「じゃあ、行くよ!」

 夏美さんが近づいてきたのを見計らって、僕は中央の椅子に座る。すると、周りの計器の輝きが変わった。コーディのモードが変わったのだ。

 「えっ! きゃあ、床が!」

 いきなり床が消え椅子だけが宙に浮く形となった。足元を失った夏美さんは、咄嗟に僕の座った椅子に掴まりぶら下がっている。流石の反射神経だ。

 「あ、ごめんごめん。床の事忘れてたよ」

 ホント悪いやっちゃな、コーディ。それに、ちょっと台詞が白々しいぞ。僕は慌てたフリをして夏美さんを引き上げる。勢い余って彼女の身体は僕の膝の上に横向きで座る形となった。

 「ちょっ、勇司くん」

 にあ。

 くろにゃあは素早く僕の頭の上に飛び乗っている。

 「仕方ない! このまま行くぞ。コーディ」

 予定通りだけどね。これからの作業はふたりが一緒にこの椅子に座っている必要があるのだ。それでいて強い優先権を僕が得るために。

 「じゃあ、ふたり同時にその球に触れて」

 椅子のひじ掛け前に片手でつかめる程度の球が現れた。僕はその上に手を差し出す。

 「夏美さん、手を乗せてっ!」

 「はいっ!」

 勢いに釣られ彼女は左手を差し出し、僕の右手の上に乗せた。そのまま僕は手を球に触れる。

 キィーーーーーーン。

 機械音と共に光の輪が広がる。そして周りの機械類が消え、僕らは空の中に浮いている格好となった。

 「登録完了! これでにーちゃんとナツはおいらの身体を動かせるようになるよ」

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