#03 僕と彼女の冒険(08)
きちんと体制を立て直してから3日経った。不思議なもので、きちんと対策を取っておくと敵というのは襲ってこないらしい。ちょっとの手間で状況は大きく変わるのだと僕らはこの身をもって学習した。それでも戦いがなかったわけではない。十分なダメージを与え逃がしてやろうとすると、相手は最後のひと噛みを狙ってくる。弱肉強食のこの世界で情けは無用なのだ。アニメなどでよくある“不殺”という行為がどれだけ愚かで甘ったれた考えなのか、僕らは思い知った。
一方で大きな問題となっているのが食料だ。何しろ川魚や木の実だけでは飽きる。それに川魚以外の動物をさばくのは抵抗もあったし、それに適した道具もない。結局、色々な植物を片っ端から煮たり焼いたり試してみることにした。幸いなことにコーディは植物に毒素が含まれているかの判定ができるので、僕らは安心してそれらを口にすることができた。反面コーディは味が全く分からないので、後悔することも多かったが……。
「きゃっ!」
声のする方を見ると、夏美さんが尻餅をついていた。その手は真っ赤に染まっていた。
「え、それ血? だ、大丈夫?」
「てへへ、失敗、失敗」
苦笑いしながらその手を舐める夏美さん。するとその表情が驚きに変わる。そして、いたずらっぽい笑顔を浮かべながら人差し指を差し出した。
「ちょっと舐めてみて」
「え?」
「いいから」
躊躇いながらその指を咥えると甘酸っぱい香りと猛烈な甘さが口の中に広がった。
「美味しい! なにこれ!」
夏美さんは残った汁を舐めながら上を指さした。そこには非常に細く長く伸びた枝の先に真っ赤なブドウ状の果実が生っていた。
「あの細い枝じゃ登れないからジャンプして捕ろうとしたんだけど、実が柔らか過ぎて上手く掴めないのよ」
……って、あの高さに届くのか? パッと見、2.5メートル位はあるぞ。
「うーん、なんか悔しいなぁ」
夏美さんは立ち上がり諦めきれない様子で上を見た。
「コーディの身体出して採ってもらおうか?」
「ダメよ、ルール違反」
「でも、あそこに届くハシゴとかはないよ」
ふと夏美さんは僕を見ると、ペタペタと身体に触り始めた。
「ふーん、勇司くんって結構良い身体してるよね?」
にやりと笑うと、背中から僕の肩を掴んで果実の下に誘導した。
「しっかり構えててね!」
だいたい何をするかが想像できた瞬間、トンと僕の両肩に彼女の足が乗っかった。
「え? 夏美さん。今?」
「へへへ、最近身体の調子がすこぶる良いんだ」
いつの間に靴を脱いだのだろう。それに助走もなしに僕の肩まで飛び乗るなんて……えっ?
瞬間、すべての思考が吹っ飛んだ。今、彼女の白い素足が僕の顔を挟むように存在しているのだ。その足は野生生活をしているとは思えないほど綺麗だった。
「あはは。採れた、採れた。すっごーい、甘い」
夏美さんのはしゃぐ声が真上から聞こえてくるので見上げると、そこにはさらなる衝撃が待っていた。このアングルは彼女の白く長く引き締まった足が短パンから伸びるのが、Tシャツの裾からはお腹が覗くのが、そしてわずかに膨らんだ胸がはっきりと確認できるのだ。何か僕は見てはいけないものを見た気がして、すぐに顔を伏せてしまった。きっとものすごく赤い顔をしているはずだ。
「どうしたの? ほら、口開けて」
突然、上下逆になった夏美さんの顔が正面に現れた。どうやら器用に身体のバランスを取りながら身体を二つ折りにしているようだ。僕の口に果実を押し込むと、嬉しそうに笑った。逆さになったショートカットのおかげで彼女の綺麗なうなじが覗く。あまりの喜びに、今彼女自身がどれだけ青少年を刺激する格好をしているのか、気付いていないようだ。また身体を起こし、果実をいくつか採っている。
「ちょっと頭下げて」
僕が指示に従うと、彼女は僕の肩からポンと飛び上がった。そして、ふわっと僕の肩に着地して肩車の姿勢になった。つまり僕の顔を彼女の太ももが挟み込む形となっているのだ。
「いやぁ、大量! 大量!」
喜ぶ彼女の声と裏腹に、僕は今晩無事に寝られるかが不安になってきた。
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