#03 僕と彼女の冒険(07)

 鎧コーディによって旅が大きく進んだこと、そして僕が睡眠不足であることから、今日はお昼までで旅を終えることにした。お昼といっても時計がないから、太陽の位置から割り出した時間になるのだけれど。コーディをペンダントに戻すと、僕たちはそのままミーティングに入った。

 「よし、欲しいものはこんな感じね」

 夏美さんがスラスラっと欲しいものリストをノートにまとめた。入手見込みの立たない物も沢山あったけれど、まず目標を作ることが重要よ、と彼女は言った。

 次に一日の基本スケジュールを決めた。朝食を食べたらお昼までは移動。お昼を過ぎたらその夜のキャンプ地を決め、罠などを仕掛ける。そして僕とコーディがキャンプ地の周りを回って食料調達と偵察任務を行うことになった。その間、夏美さんが夕食の準備をすることに。もう敵に襲撃されるのはコリゴリだ。

 そしてコーディの扱いについて時間をかけて話をした。コーディの身体が修復されると、とてつもなく便利になることは容易に想像できた。だからこそ、僕たちは彼に頼るべきではないと結論づけた。つまり、まずは彼に修復に専念してもらうために鎧を出すのは1日1回だけにするルールを決めた。その時に荷物の出し入れを行う。つまり、食料の補充も着替えの出し入れもその時だけ。少々不便だけど、仕方がない。コーディ自身はあまり口を挟んでこなかったが、結論に不満はないようだった。

 基本的なルールを決めたところで、僕は武器を作ることにした。武器といっても落ちている木を削ってバット状の棍棒にするだけだ。何しろ道具が何も無いから尖った石で少しずつ削いでいく。削っても削っても思った形にならない。気ばかり焦って先に進まない。まるで今の僕たちが……いや、僕が置かれた状況を示唆しているようだ。

 夏美さんは覚えたての魔法(ファイアーショットと名付けた)の特訓中だ。コーディは彼女の胸にぶら下がりアドバイスをしている。

 「もっと早く! イメージの生成と狙いを同時につけて!」

 「はいっ!」

 彼らの会話が聞こえてくるたびに、置いて行かれる気分になる。昨夜の彼女の姿を見ていなかったら、いつか僕は嫉妬していたかもしれない。それほど彼女の能力は高い。しかし僕は見てしまった。彼女がまさしく倒れる寸前まで休みなく努力する姿を。

 魔法についても、競泳についても彼女は恵まれた才能があるのだろう。だからこそ彼女がイジメにあっていたのも理解出来る気がした。恐らく彼女はその持って産まれた才能だけで軽々と周りを追い抜いていくように見えたのだろう。それは間違ってもいないが、正しくもない。そして、それを受け入れられない者たちが彼女の出生を理由にイジメに走ったのだろう。しかし最終的に彼女はその才能と努力でイジメをねじ伏せてしまった。一応は解決したのだけど、それは彼女が望んだ風景ではないのだと思う。


 「よし! こんなモンかな?」

 何となくバットのようにも見える棍棒ができあがった。細く削ったグリップ部がいびつで手が痛い。まさかこんな状況でバッティンググローブが役に立つとは思わなかった。しかしこんな棍棒でも、オオカミに襲われた時に持っていれば役に立ったはずだ。

 「夏美さん、そっちはどう?」

 僕は棍棒を自慢げに振り回した。

 「へぇ、なかなか良いじゃない? あの時、それがあれば役立ったのにね」

 全く同じ感想を口にする彼女に苦笑した。

 「そっちはどう?」

 「だいぶコツが掴めてきた感じ。今なら左右どちらの手からでもショットは撃てるわ。まだ左手が苦手だけど、何とかする。今のところ連射速度と飛行距離はこんな感じ。覚えておいて!」

 ドゥ! ドゥ! ドゥ!

 構えた右手のひらから炎の球が連続して飛んでいった。おおよそ110キロぐらいといったところか。通っているバッティングセンターのマシンが正しければの話だが。射程距離は40メートル程度か。だいたいホームからセカンドベースくらいまでの距離と考えれば良いだろう。

 「でも、また夏美さんに差を付けられちゃったな」

 僕がボソっと呟くと、夏美さんが少し怒った表情になった。

 「何言ってんのよ、勇司くん。司令塔がそれじゃ困るよ」

 「へ?」

 「あの時だって、状況を正しく判断して指示を出してくれたのって勇司くんだったじゃない」

 「そ、そうだっけ?」

 「そうよ。頼りにしてるんだから」

 僕が照れると、夏美さんの胸にぶら下がるコーディは押し殺したような声で笑っていた。

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