#03 僕と彼女の冒険(09)

 地図のない旅も、もう一週間。一緒に生活していると色々な発見がある。夏美さんはとにかく忙しい。ちょっとでも暇があると運動をしたり、教科書を読んだり、とにかく何かしていないと気が済まないタイプなのだ。なぜ教科書なんか読むのか聞いたら「私、無趣味だから漫画とか小説って持ってないのよ」とのこと。彼女にとって教科書を読むのも、娯楽的な書籍も変わりないらしい。

 今日もコーディと定例の周辺偵察。戻ってくると夏美さんはいない。今日はちょっとした発見があって一刻も早く夏美さんに教えてあげたいのに。

 「あれ、またどこかでトレーニングしてるのかな?」

 この時間だと彼女は森に入ってることが多い。昨日はものすごい勢いで懸垂をしていた。男でもあのスピードでできる奴はそうはいない。小柄な夏美さんのどこにあれだけのパワーがあるのか本当に不思議だ。むしろ日に日にパワーアップしているようにすら感じられる。今回は枝に足を引っかけて、真下から真上に起こす腹筋運動をしていた。それもバネでも仕掛けられているようなとんでもないスピードで。あれだとバキバキに腹筋が割れていてもおかしくないのだけど……。

 「あ、おかえり。どうかしたの?」

 夏美さんは運動をやめて僕の方を見た。普通なら一日の運動ノルマとか決まってそうだけど、彼女は僕との共同生活の方を優先してくれる。

 「……あ、いや。かわいいおヘソが見えてるな、と思って」

 「え? きゃんっ!」

 つい思っていたことが口に出てしまった。動揺する夏美さんは地面に落下。これまた珍しいパターンだ。

 「大丈夫? ごめんごめん。それよりさ、来てくれる? 面白いもの見つけたんだよ!」


 ちょっとした山のすそ野、森を抜けた場所にそれはあった。

 「……え? これってもしかして」

 「温泉だよ、温泉! 湯加減も最高! しかも、どう見ても人が作ったもの」

 「と、いうことは!」

 「そうだよ、きっと近くに人のいる村か何かがあるってこと。ゴールはもうすぐだよ!」

 思わずふたりで手を握り合う。

 「やったぁ、もうすぐ終わるのね、この旅」

 「いや、まだ終わりじゃないけど、きっと進展があるはず」

 「それでもいい! あぁ、お布団で寝られるかも。美味しいご飯が食べられるかも。夢のようだわ」

 「それにさ、温泉があるってことは、文化も僕らに似ているってことだよ」

 「それで、実際に村は見つかったの?」

 「コーディと一緒に回ったんだけど、すぐに行ける距離には見つからなかった。でも、きっとすぐに着くさ」

 「そうね、ここまで来たらそれくらい、何でもないね」

 「だからさ、今日は温泉に入ろうぜ」

 「え?」

 「もちろん、別々にだよ」

 「ほっ。あ、それで荷物をまとめろって言ったのね」

 「そうそう。じゃあ、夏美さん、後ろ向いて!」

 「え! はい」

 素直にくるりと後ろを向く夏美さん。その隙に僕は服を一気に脱いで温泉にダイブ!

 ばしゃーん!

 「あー、ずるい」

 ほっぺを膨らませる夏美さんに構うことなく。僕はお湯につかった。

 「あーーーーー、いー気持ち。生き返るわぁ」

 僕の脱ぎ散らかした服をかたづけながら、夏美さんは不満そうな表情を浮かべる。そして、ぷいとあっちを向いて森の中に入って行ってしまった。

 「うーん、やりすぎたかな?」

 「にーちゃん、あんまりからかうなよ」

 僕の胸にぶら下がったままのコーディが言う。

 「そうだな……」

 と、言いつつも僕は上機嫌。何しろ一週間ぶりの風呂だ。疲れがゆっくりと溶け出していくようだ。

 がさっ。

 森の方から音がする。僕は慌てて身構える。

 「しまった、何も武器を持っていない!」

 緊張しながらその方向を見ると……。

 「夏美さん!?」

 素肌にバスタオルを巻いた彼女が、照れながら入ってきた。

 「だって、我慢できないもん。いいでしょ?」

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