#04 落陽の村、ビギ(08)

 「自己紹介が遅れたな。私はパトル。こちらは妻のマカロ。まずは私たちの娘を助けてくれたこと、感謝します」

 パトルさんは固い口調であるけれど、深々と頭を下げた。

 「まずは、その時の話を伺ってもよろしいですかな?」

 「あ、はい」

 僕は夏美さんの救助の様子を差しさわりない部分だけをお話しした。具体的には夏美さんの魔法とコーディの活躍、そしてルネット襲撃の件だ。したがって夏美さんにツタを付けて、僕が引き上げたことになっている。

 「信じられん。川の水は増水していて泳ぐどころではなかったはずだが……」

 「あ、夏美さんは僕たちの世界で一番のスイマーですから」

 「僕たちの世界?」

 パトルさんの眼がギラリと光る。

 「あ、いえ。隠すつもりは無かったんですが……。というか、僕たち自身、何も分かっていないのですが……」

 僕たちは気が付いたら全く知らないこの世界にいたことを説明した。持ち物をいくつか見せると思ったよりも簡単に納得してくれた。

 「じゃあ食事は木の実やお魚だけだったの? それじゃあ、あの食欲も納得だわ」

 マカロさんは呆れたような顔をした。

 「動物に襲われはしなかったのか?」

 パトルさんに問われると僕はお手製のバットを見せた。

 「娘の命を助けられたが、私にはお前たちの命が無事だったほうが驚きだよ。

 ……さて、ここからは私たちの都合を話させてもらおう。実は、この村は今朝、軍の捜索を受けてな、娘はその時に私を探して川に落ちたらしい。軍が何を探しているのかは分からないが、村は見ての通りかなり荒らされた状態だ」

 僕はこくりとうなずいた。

 「お前たちは訳ありの人間のようだが、軍に関係しているとも思えん。知ってたらノコノコとこの村に来ないだろう。

 しかし、この世界の人間でないというのなら話は別だ。お前さんたちそのものに価値があるのかもしれん。残念だがそのような人間をこの家に泊めることはできない。娘の恩人であるお前さん方に失礼だとは思うが、私にも家族を守る使命がある」

 正直なところ、色々と期待はしていたのだけどなかなか上手くはいかないようだ。先方には先方の都合がある。ここは潔く諦めよう。僕は立ち上がり頭を下げた。

 「いえ、こちらこそ美味しい食事をいただきありがとうございました」

 僕が握手を求めようとするとパトルさんはそれをやんわりと拒否した。そして外から持ってきた袋を机の上にドサリと置いてニヤリと笑った。

 「まぁ、そう慌てるな」


 話は終わり、僕は夏美さん達のいる部屋に移動した。ふたりは“おちゃらか”で遊んでいた。アモは慣れない遊びで苦戦しているようだったが、楽しそうだった。

 「あ、お疲れさま。どうだった?」

 「今晩、泊まっても良いってさ」

 「やったぁ!」

 夏美さんよりも先にアモが喜びの声をあげる。思わず彼女を抱きしめる夏美さん。

 「あと、これ」

 僕はパトルさんにもらった袋の中から服を取り出した。

 「何、これ?」

 「その恰好じゃ目立つから、これに着替えろって。僕たちはパトルさんの“親戚”って設定でいくみたい」

 「あはは、じゃあ私たち兄妹ってことになるのかな?」

 「そ、そういうことになるのかな?」

 夏美さんは笑いながら甘えるような声で言った。

 「よろしくね、お・に・い・ちゃん」

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