#09 孤独の塔(12)
*(時は勇司たちのアジトが襲われる頃にさかのぼる)
重力の変化という前触れなく、突然扉が開いた。
「久しぶりね、お姉様」
「……ギルト」
開いた扉から広がるように魔法を吸収した壁が光っていく。そして彼女が歩くと、壁の光の最光度エリアが移動していく。
この子……常に魔力を放出してる?
ギルトはゆっくりと近づき、私の眼の前に立った。本当に私と似ている。でも、なぜだろう。鏡を見ているような感覚にはならない。
ギルトの左手は頬を優しく撫で、顎に移動し、クイッと私の顔をあげた。
「喜んで、お姉様。お兄様が認めてくださったわ。私たちが組めば最強。世界だって手に入る。あぁ、夢みたい、こんな日がくるなんて……」
な、何を言ってるのだ、この子は。この前と全然言っていることが違う。それに自分のことは“アタイ”と呼んでいたはず。その時、気付いた。この子に感じる違和感に。
……洗脳されてる?
ギルトの眼に光がないのだ。言葉に意思が感じられない。思い返せばこの子は、常にその場その場で適当な言葉を並べるだけのように感じられてきた。
「お兄様がお許しくださったのよ。あなたに力を与えることにっ!」
顎に添えた指で私の身体をグイッと持ち上げ、余った手で私の服を引き裂いた。たった一枚の布でしか覆われていなかった私の肌が露わになる。足をバタつかせて抵抗するが、宙に浮いた身体では全く力が入らない。
「いったいその身体のどこにそれだけのパワーがあるのかしら? 凄いわ。普通、顎で持ち上げられたらまともに身動きすらできないわよ」
そして右手を振りかぶり私に向かってパンチを繰り出す。
ドゴッ!
私の顔の横に繰り出されたそのパンチは、軽々と壁を砕き、破片が飛び散った。こんな物が当たったら……。
「ふっふっふ……。すごいでしょう、この力。私だけのこの力、お姉様にも分けてあげる。その身体でそのパワーのお姉様が、私のような身体になれば無敵。そうなったらふたりで復讐しましょう、この世界に。私たち姉妹を引き裂いたこの世界をひとつにするの」
そう言って右手を腰のケースに移し、白いカプセルを取り出した。そして彼女の瞳に怪しい光が宿る。
「さあ、これを飲んで。即効性だからすぐに身体に変化が現れる。強くなっていく様子を、世界をねじ伏せる新たなる王の誕生を……私に見せて」
カプセルを持った右手がお腹を、胸を、喉を撫でるように通り過ぎていく。私は必死にもがくけれど両手を縛る鎖が、そして顎を掴んだギルトの怪力がそれを許さない。そして無理矢理私の口を開かせ、カプセルを飲ませようとする。
ズドーン!
「!」
何だろう? 今、小さな爆発音のようなものが聞こえたような。ギルトは全く気付いていない。続けてもう一発、爆発音がした。恐らく私の拡張された聴力だから聞こえているのだろう。この分厚い壁の向こうで行われてる会話でも私は聞き取ることができるのだから。
何かが起きている。
私は確信した。聴力に全神経を集中する。何か騒ぎが起きているようだ。その中に確かにその声はあったのだ。
(夏美さん! 今、助けに行くっ!)
……勇司くん。ほんの微かな声だけど、私が聞き間違えるはずがない。彼がこちらに向かっている。つい涙が出そうになった。助けて!
その時、カプセルを持つギルトの右手が私から離れた。ホッとするのもつかの間。
「折角だから、口移しで飲ませてあげる」
彼女はカプセルを口に咥えた。こいつは本気か? 私たちは姉妹なんだぞ! 私の抵抗むなしくギルトの顔が近づいてくる。ゆっくりと、ゆっくりと。それも半ばウットリした表情で。
そこに監視役が飛び込んできた。
「ギルト様! 侵入者です! なんとこの塔の壁を昇ってきているそうです!」
ギルトの動きがピタリと止まった。やっぱり勇司くんだ! 勇司くんがこっちに向かってきてくれている。そしてその報告を今してくれた監視役に心から感謝した。ギルトは舌打ちを打って顔を離すと、咥えたカプセルをかみ砕きニヤリと笑った。その瞬間、ギルトの周りの壁がドクンと強い光を放つ。
「この高さをか。……面白い。お前らはランペットの準備をしろ! とっとと行かんかっ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます