#10 ふたりだけの軍隊(01)

 ギルトと監視役は部屋を出て行った。聞き耳を立てると、監視は誰もいないみたいだ。

 「……ラッキー。しかも、ドア開けっ放し」

 誰の監視もない今なら、遠慮なく魔力を吸収できる。思いっきり深呼吸するように魔力を取り込みはじめた。ひと呼吸ごとに魔力が満ちていくのが実感できるようだ。ここ数日のトレーニングの成果か、エネルギーの許容量が上がっているようだ。吸収しても、吸収しても限界が見えない。

 「では、とりあえず試してみますか」

  もう一度ゆっくりと息を吸い、呼吸を整える。眼をつぶり精神を集中させる。そして大量の魔力をイメージに変換する。出てこい! 強い、強い、強い、私……。

 ……ドクン!

 恐怖を感じ、思わず私の集中が切れる。

 「な……何、今の……」

 私は私の創ったイメージに戦慄した。なんというイメージなのだ。その姿は今までと何ら変わらないのだけど、恐ろしいまでの力に溢れていた。もはやそれは“力の塊”と形容すべきものだった。

 「……これを……受け入れろというの?」

 何か、禁忌の領域に足を踏み入れる気がする。これでは私自身が正真正銘のバケモノになるかもしれない。

 ……でも躊躇する余裕はない。これを受け入れるか、ギルトの薬を受け入れるかの二択しかないのだ。

 ならば、私の道は私が選ぶ!

 「ふんっ!」

 腕に力を入れ鎖を引っ張る。やはり素の私の力ではビクともしない。そのままの状態でイメージを作り重ね……。

 ビンッ!

 勢い余って私は部屋の中央にまで転がり落ちた。

 「痛たたたた……、あはは、切れた」

 なんと、イメージが完成する前に鎖がちぎれてしまった。自由になった腕が軽い。鎖がぶら下がっているが、その重さが感じられないほどだ。

 「よおし」

 手首のリングに指を掛けイメージを作る。そして一気に引き抜く。

 ベキッ!

 丈夫なリングをいとも簡単に引きちぎることができた。尋常ではない……いや、とんでもない力だ。これでいいのだろうか……。

 そして、ギルトが殴った跡に眼を向ける。あらためて見ても恐ろしい力。殴った所は大きく砕け、粉々になった破片が飛び散っている。

 「今の私なら……」

 私は精神を集中し、フルパワーのイメージを作った。そしてギルトの開けた穴の隣をフルパワーで殴る。

 綺麗な拳の跡ができたが、それだけだ。壁は光らなかったので、魔力は体内で効率よく使えている。つまり今の私にはこれが精一杯ということだ。そして床に落ちた破片を拾う。ずっしりと重い。

 「どんな馬鹿力なのよ、あの子……」

 つまり、力で対抗するなら人間を捨てる気で挑む必要があるということだ。

 「……誰っ!」

 また、何かの気配を感じた。手にした破片をその方向に投げる。一直線に飛んでいったそれは壁に当たり、床に落ちた。しかし私は見逃さなかった。空中で少し破片の光が淡く増したことを。気のせいではない。ここに誰かがいたのだ、誰かが……。

 「きゃっ!」

 突然、私は思い出した。ギルトに服を裂かれたことを。つまり前全開。下着も取られているので、今の私は裸マントといってよい変態モード。それを誰かに覗かれた? 頬が猛烈に熱くなっていく。思わず気配のあった方向に視線が行く。

 「あれ? 何かしら」

 部屋の隅に綺麗な箱があるのに気付いた。鍵が掛かっているが、今の私には無意味だ。力ずくで開けてしまう。

 「あ……私の服だ」

 助かった。そう言えば監視役の人、私をどう扱っていいか悩んでたもんな。解放された時にご機嫌取りにでも使うつもりだったんだろうか? 私が幹部になるかもしれないなんて言ってたし。でも、こんなことしてたら出世は無理なんじゃないかな……?

 袖に腕を通すと懐かしさがこみ上げてくる。私自身のサイズも変わっていない。流石にミドの街の警備隊のジャンパーをそのまま着ると目立つので、その上に今まで着ていた服を重ね着した。そしてポケットに手を入れると、ちゃんとお守りがあることが確認できる。

 「よかった……。お願い、私に勇気をちょうだい。そしてまた私と勇司くんを引き合わせて」

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