#11 対決(03)

   *

 炎や氷の魔法よりも雷の魔法は速い。反面、まっすぐに飛ばないため周りの浮遊岩などに当たってしまう欠点がある。

 「にーちゃん! おいらも多少の耐性はあるけど、あまりあれは喰らいたくないな」

 「ああ、同感だね」

 宙を飛ぶ天使は次々と雷撃を放つ。僕は雷撃を避けつつ、次々と浮遊岩に飛び移る。身長の数倍のジャンプが可能なコーディならではの芸当だ。逃げる僕らを黒の天使が追い詰める。

 「にーちゃん、足元に気をつけてよ。雷は近くに落ちても、地面を通じてダメージがくることがあるから」

 「ったく、雷ってのは面倒だな」

 ランペットの雷撃は強力で、脆い浮遊岩なら砕いてしまう。逃げる僕らの後ろからは沢山の岩が舞い上がる。

 逃げる、逃げる、逃げる。しかし、翼のある者の機動力には勝てない。コースを大回りして、ランペットに先回りされてしまう。

 「くそっ!」

 僕は再び逃走する。今度は先ほど逃げてきた方向だ。光る大剣をバックミラー代わりに後方確認する。魔法の光のみの暗い空間。何もしなければ黒い身体は見えにくいのに、頻繁に放つ雷撃が自らを照らしていることに気付かないようだ。おかげで位置確認がしやすい。

 「にーちゃん、剣は雷が落ちやすいよ。仕舞う方が良いんじゃない?」

 「まあ、見てろって」

 僕は浮遊岩の密集地帯を目指す。ランペットは一直線に飛ぶが、急な方向転換が得意ではないのだ。大きな翼は広い空間を必要とsる。自らの雷撃で浮遊岩を増やすことは不利になると気付いたらしく、魔法攻撃の数は減っていった。しかし、時すでに遅し。囲まれた浮遊岩の空間はコーディのジャンプ力を持ってすれば、そこかしこに地面があるのと変わらない。地を蹴り、天井を蹴り、壁を蹴って襲いかかる。狭い空間に追い込まれたため、大きな動きがとれないランペット。しかし、コーディの攻撃をかわす程度の機動力は確保していた。手数は増えたがダメージを与えられないコーディ。ただ、着地や空ぶり攻撃が浮遊岩にダメージを与えていくだけだった。

 「……よし、そろそろいいか」

 僕は目標と定めた浮遊岩に着地する……が、足を滑らせ体勢を崩してしまう。慌てて大剣を岩に突き刺し、バランスを保とうとする。が、手を滑らせ結局転んでしまう。これを機と見たか、ランペットが翼を広げスピードを上げる。そして強烈な雷撃を放った。

 「コーディ、耐えてくれ!」

 「え?」

 僕は地面を這うように移動し、体を低くした。

 パーン!

 真横に雷撃が落ちた。深々と刺したコーディの大剣が避雷針となったのだ。強力なランペットの雷撃は、大剣を通じ浮遊岩に伝わった。狙い通り。僕が移動した浮遊岩はこれまでの戦いで大きくダメージが加わった物なのだ。そして一点に集中する雷のパワーに耐えきれず一気に砕け散った。大きく砕けた岩は放射状に飛び散る。勢いよく突っ込んでくるランペットに襲いかかる。思わず顔を覆う漆黒の天使。しかし防御すべき場所はそこじゃない。薄く脆い翼に次々と小岩がぶつかっていき、ダメージを受ける。そして、飛び散る岩のひとつにコーディが乗っていた。ランペットが気付いた時にはすでに遅い。もう避けられない所まで近づいていた。

 「待ってたぜぇ、この時を!」

 僕は天使に飛びかかった。振りほどこうと翼を羽ばたかせるが、もう力はない。コーディの右手が翼を掴むと一気に引き裂いた。空中に留まることができないランペットは落下し始めた。パワーで勝るコーディはランペットの手を押さえ込み、受け身が取れない姿勢に持って行く。そして、空中に浮く岩を使って、頭から落ちるように姿勢を変える。

 そして一気に地面までランペットは真っ逆さま。

 ドーン!

 ランペットは頭から地面を直撃し、その衝撃は巨大なクレータを作った。ダメージは甚大。ランペットは動かない。僕が離れると、ランペットはバタリと倒れた。片翼がもげた天使。もう戦う力は残っていないだろうが、念を押す。右手を挙げると遅れて落ちてきた大剣がすっぽりと収まった。そして、持ち手を変えてランペットの腹を突き刺す。ビクンと一度動いた跡、ランペットは完全に静止した。

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