#11 対決(04)
*
ついにギルトが膝をついた。私はすかさず腕を取り力任せに一本背負い。その衝撃で地面が大きく凹む。次の攻撃に入ろうとしたが、ギルトにするりとすり抜けられてしまった。
「ハア、ハア、ハア、ハア」
大きく肩で息をするギルト。いける! 格闘経験の少ない私だけど、今なら追い詰めることができる。走り寄り、両手をがっぷり組んだ。力比べだ。私よりも遙かに太く逞しい腕。負けたことはおろか、苦戦したことすらなかったのだろう。
「こっ……こんな……馬鹿なっ!」
細腕の私がパワーで圧倒している。今の私だって並ではない。鎖だって引きちぎることだってできる。しかし、それは魔法によるサポートによるものだ。
ギルトは私の手を振り払って距離を取った。私を睨みつけたまま腰のポーチに手を伸ばした。そして口いっぱいにカプセルを放り込み、ガリッと噛んだ。
ドクン!
彼女の心臓に一気に血液が流れ込む音がここまで聞こえてくる。ギルトの筋肉が一気に膨れあがる。なんと恐ろしい薬だろう。即効性と効き目が異常だ。……あれでは身体が持たない。
「うおおぉぉぉ!」
ギルトが雄叫びを上げ、再び力比べを挑んできた。
「無駄よっ」
私はパワーで圧倒する。コツを掴んだ以上、もう負けはない。ギルトの表情が驚愕に変わる。
「な……なぜだ。なぜ力が入らないっ!」
「私のパワーにあんたの筋肉が萎縮してるからよ」
その言葉を聞いた途端、ギルトは声を荒らげ、蹴りを放ちその場を離れた。
「嘘だっ! そんなはずがない」
はい、嘘です。これは勇司くんが授けてくれた作戦。
『他人を治癒できるのなら、相手を操ることもできるんじゃない?』
流石に操ることはできないが、妨害をする程度なら今でもできる。私の力の源は水。ギルトの氷球と私の火球がぶつかってできた霧は、私とギルトを繋いでいる。彼女が力を入れるべき箇所を邪魔するだけで圧勝できるのだ。元々彼女の身体の中で筋肉同士が喧嘩していた。いくらパワーを増やしても、マイナスのパワーも増えるのだから意味がない。そして身体に直接触れることができるのなら、より強力な妨害が可能。水が流れ、魔力に溢れるこのフィールドは私にとって圧倒的に有利な場所だったのだ。
ギルトが闇雲に攻撃を仕掛けてくる。パワーで負け、スピードで負け、スタミナで負け。戦闘テクニックはギルトの方が勝っているけれど、力尽くで押さえ込まれる。そして今、そのテクニックをも私が学習している最中だ。氷球魔法も私の火球によって打ち消され、水蒸気となって私の力になる。完全に勝負は付いた。が、彼女のあがきは終わらない。
その根性が、正しい方向に向いていれば良かったのに……。
私を嘗めきっていた彼女のミスだ。魔法のない世界で魔法の練習を積んできた私が特殊なのだろうけど。スポーツで言えば高地トレーニングを積んだアスリートのようなものだ。この世界に満ちる豊富な魔力を、私は余すことなく取り入れることができる。
ギルトが力を求めるのは、彼女が選んだ道。それ自体は悪くない。しかし薬に頼りきったのが良くない。あまりにも簡単に膨大な力が得られるため、本来求めるべき“力”に彼女は支配されてしまったのだ。そんな彼女に私は負ける気がしない。
私に勝てるとしたら……勇司くんのような人なのだろう。冷静に現状を把握し、受け入れる。そして諦めない。今、私は勇司くんの先を行っているけれど、いつかは追いつき、追い抜かれる気がしている。
その時、私は嬉しいのかな?
それとも悔しいのかな?
見当付かないけれど、それが私が勇司くんに惹かれる理由なんだ。
「ていっ!」
思いっきり地面にギルトを叩きつけると、ついに彼女は動かなくなった。
「……こんな物があるからっ!」
ギルトの腰のポーチを剥ぎ取り、ケースごとカプセルを握りつぶした。
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