#05 白銀のコーディオン(03)
「コーディ、魔法はただ念じるだけでいいの?」
「にーちゃんの手を重ねた状態でね」
「……はいっ。勇司くん、失礼」
夏美さんの手が置かれたことが認知できない。考えてみれば彼女は僕の膝の上。とてつもなく美味しいシチュエーションを実感できないなんて……。
「にーちゃんは右手をルネットに向けて! ナツは右手から魔法を放つ準備をして!」
コーディからの指示が飛ぶ。
「ファイアーショットだな。合図は誰が出す?」
「勇司くん、お願い!」
「わかった。魔法の射程は?」
「やってみないと分からないよ」
「……だな。ルネットをできるだけ引きつけて撃つぞ」
僕は相手に動きを悟られないように普通に走り続ける。まだだ、まだ。奴の動きは素早い。精神だけでコーディを動かしているため、呼吸が乱れることがないのはありがたい。逆に言えば、心が折れると力が保てなくなる。弱気になるのが一番まずい。常に強い気持ちを持たなくては。いよいよ怪鳥の姿が大きくなってきた。
「そろそろ行くよ、夏美さん」
「いつでも行けるわ、勇司くん。カウントダウン不要よ」
「わかった!」
怪鳥が浮力を得るため、大きく翼を羽ばたいた。僕は右手のひらを向けながら叫んだ。
「撃て!」
ドゥゥゥゥン!
僕の右手が熱くなり、それが手のひらから抜けていき、一筋の炎となる。それが一瞬。一直線に飛んでいくその炎はルネットに回避する余裕を与えなかった。
ギャァァァァーーーッス!
炎の球はど真ん中ではなく、やや右肩よりに命中したが、それでも十分な威力を持っていた。翼に大きなダメージを受けた怪鳥は空に留まることができず、地面に目がけてまっしぐら。僕は止まることなく落下予想地点目がけ走り続けた。
「うおおおぉぉぉぉ!」
まだ魔法の名残りが残る右手を握り締める。一足先に落下地点に着き、待ち構える。落下するルネットにはコントロールする力は残っていなかった。吸い込まれるように僕の前に落ちていく。拳を振り上げ、左足を高く上げ、腰がねじ切れるほどに捻って力を溜める。溜めて、溜めて、溜めて、限界まで溜める。
「3……2……いちっ!」
高く上げた左足を踏み出し、力を溜めた腰をグンッと回し、右足で強く地面を蹴り、拳をブンと振り回す。全ての力が拳に集中し、そのままルネットを貫く。
グシャアアアァァァッッッ!
巨大な骨と肉がひしゃげる生々しい音がしたかと思うと、ルネットの身体は礫のように飛んで行った。二度、三度と地面を跳ね、四度目の着地でその動きを止めた。
「よっしゃぁぁぁっ!」
僕は思わず拳を真上に突き上げた。
「す、すごい……。あれだけ苦戦したルネットを簡単に……」
驚嘆する夏美さんの声が聞こえてくる。
「おいらはマジックアイテムでもあるからね。ナツの魔法も大幅に増幅されるって訳さ。今はまだシンクロ度が低いからこんなモンだけど」
「まだまだパワーアップするってことなの?」
「そゆこと」
「よし! 次行くぞ、次!」
僕のテンションは上がりっぱなしだ。
「……なるほどねぇ。コーディ、あなた人を見る眼は確かだね。私より勇司くんの方があなたの操縦は向いてる、本当」
「それ誉めてます? 夏美さん」
「当然! 次のロンボーンが近づいてきたわよ」
鈍重な身体を揺らしながら、巨獣がこちらに向かってきた。
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