#12 あがき(07)
そう、これが僕らの作戦だ。
僕が身体を丸め防御の姿勢をとっている間に夏美さんはコーディから降りていた。そして左腕の切断面に移動していたのだ。
事前にコーディの左腕に触れていれば魔法を打ち出せることは確認済み。僕とコーディがジーウィと戦っている間に、夏美さんは集中に時間の掛かるファイアーボールを錬成。マジックアイテムでもあるコーディの左腕は魔法増幅装置であり、魔法発射台。ただし方向は変えられないので、こちらで当たるように仕向けなければならない。
ジーウィはまんまと僕らの罠にかかっていたのだ。巴投げで宙に浮かされたジーウィは姿勢を変えることができない。そして無防備な背中がコーディの左腕の先に届こうとしていた。
ブウウゥゥーーーン……。
ファイアーボールが次第に巨大化し、そのエネルギーは地面を溶かし始めた。この作戦、ひとつ大きな不安があり、僕とコーディは反対していたのだが。
「ファイアーボールッ!」
夏美さんの声が響く。今度こそ、全てを終わらせるべく、巨大な火球が発射された。まるでスローモーションのように落ちていくジーウィに、ファイアーボールは一直線に飛んでいった。
「ぐあぁぁぁぁぁ……!」
ギルトが叫ぶが、巨大な火球は無情にジーウィを飲み込んでいく。そして、その衝撃はそれだけに留まらなかった。
ファイアーボールを撃ちだした反動でコーディの左腕が大きく押し戻される。舞い上がる石と氷の粒で視界が一気に悪くなる。
「夏美さんっ!」
僕は思わず走り出す。
にあーーーー!
くろにゃあがひときわ大きな声で叫んだ。舞い上がる石や氷の粒の中、高く舞い上がる影が見つかった。夏美さんだ!
「今、行くっ!」
彼女は今、ゆっくりと落下していた。まるで野球のフライのように。僕は落下地点に移動し、右手を高く差し出した。そして生卵をキャッチするように、デリケートに彼女を受け止めた。これでゲームセット。
僕はコーディに制御権を明け渡して、外に飛び出す。右手のひらにいる夏美さんはブルブルと震えている。
「夏美さん! 大丈夫かっ!」
「さ……」
「さ?」
「寒かった……」
抱きついてくる夏美さんの身体は冷え切っていた。そりゃ氷の世界で水着の上に体操着を羽織っただけでジッとしてれば、こうなるか。
「魔法で暖めれば?」
「ううん、こっちが良い」
そう言って彼女はギュッと抱きついてきた。
「お疲れさま」
僕も抱きしめ返した後、お姫様抱っこして起ち上がった。
にゃああーー。
くろにゃあが僕と夏美さんの間に割り込むようにして、彼女の胸に飛び込んだ。
「あはは、暖かい。くろにゃあもありがとね」
「ったく、無茶するんだから、夏美さんは」
「だって、勇司くんが何とかしてくれるって信じてたし」
彼女の笑顔で全てを誤魔化されている気がする。
「で、勇司くん。ギルトは?」
「あそこだよ」
ファイアーボールで大ダメージを負ったジーウィは地面に叩きつけられ、痙攣するようにピクピクと動いていた。
「にーちゃん! 何か変だ。ジーウィが暴走している」
「何ぃ!」
身体の関節という関節から黒い煙が湧き上がる。そして痙攣が大きくなり、身体が跳ね上がるほどになった。
「にーちゃん! 逃げろ! ジャンプするぞ」
さらに痙攣が激しくなるジーウィは自らが発した黒い煙に吸い込まれていった。
「……な、何が起きたんだ、コーディ?」
「ガルフが言ってただろ、僕たちは領域を渡る船だって。ただ、自由に世界を渡れる訳ではないんだ。ザドさんが説明したように、条件が揃った時に、その条件に合わせて移動できるに過ぎない」
「突然、どこかに行ける橋が現れて、それに飛び乗ることができるのがコーディたちって訳か?」
「そんな感じ。でも、今はその橋がない。だからジーウィは長い放浪の旅に……」
夏美さんの声が大きくなる。
「それじゃあギルトは?」
「実はおいら、昔ジーウィと戦って負けたんだ。それもコテンパンに。その時に乗っていた人は放浪している最中に亡くなった。おいら自身もダメージと長い旅で記憶に障害が発生し、身体はボロボロになった。気の遠くなる年月を放浪してたまたま“寄せ集めの世界”に戻って来れたんだ。その時、出会ったのがにーちゃんだった」
コーディの告白を聞く夏美さんが言葉を失う。それはギルトの死を、彼女を救えなかったことを意味するのだから。
「コーディ! 今から追いつけるか?」
「無理じゃないけど……」
「じゃあ、追いかけてくれ」
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