#09 孤独の塔(02)
「連れ去られたぁ?」
僕は思わず大きな声を出した。そうか、そうだ、そんなことも気付かなかったのか! 相手はあのギルトだ。そもそも僕は殺されかけたし、コーディもいない。何か異常が起きているに決まっているじゃないか。いきなり嫌な汗が噴き出してくる。
「ようやっと眼が覚めたか、ユージ。……まぁ、死にかけたんだから記憶が混乱してもおかしくはないか」
「教えてください、何があったんですか!」
ギルトたちの目的はザドさんの蔵書強奪と、ダムを破壊してミドの街を水没させることであった。水没させることで証拠の隠滅と、余計な蔵書が他者の手に渡ることを阻止しようとしたらしい。
「すごかったよ、ナツミは。真っ赤になったコーディで押し寄せる水を打ち上げ、上空で蒸発させて。守護神ってのがいるなら、ああいう感じなんだろうな。彼女は街を救い、力尽きてギルトに連れ去られたって訳さ」
「ということは、コーディも」
「……ちょっと外に出ようか」
僕は丸三日寝ていたらしい。街はあちこちが破壊され、祭りどころではなくなっていた。あちこちに水たまりがあり、夏美さんが放った魔法の跡がうかがえる。後片付けをする人もいるが、ほとんどが疲れ切った表情を見せていた。
街を抜け、僕は河原に連れてこられた。地形は大きく変わり、ダムからある地点にかけて沢山生えていた木が根こそぎ倒されていた。その地点を境に木が増えていくので、ここでコーディと夏美さんが頑張ったのだろう。穏やかな今の水の流れからは想像もできないが。
「ほれ! あれを見てみろ」
オジーさんが指さす先には子供たちがワイワイと騒ぎながら河原で何かやっている。かなりの大人数だ。
「あれは、何やってるんですか?」
「あー! ユージちゃん。だいじょうぶー? 元気なった?」
僕に気付いたアモが飛びついてきた。頭を撫でながら「心配かけたな」と言うと彼女はにぱっと笑った。
「みんな、何やってるんだい?」
「みんなでコーディ探してるの!」
アモの予想外の言葉にオジーさんの方を見ると、バツが悪そうな顔をする。
「絶対にな、コーディはこの辺にいるはずだと言って聞かんのだ」
「いるもん! 絶対!」
そう叫んでアモは再びコーディ探しに戻っていった。
「なんで……子供たちが……」
「ナツミはこの街を救った英雄だしな。……いや、子供たちは純粋にナツミにまた会いたいらしい」
「だってほとんど面識はないでしょう?」
「ナツミは子供たちに紙飛行機だっけ? あれの作り方を教えたらしいな。たったのあれだけで子供たちのハートを掴んでしまったらしい」
それでこれだけの子供たちが……。ヒトだけでなく、サーディアンもたくさん。くろにゃあも混ざって探している。夏美さん、君は兄弟が欲しいと言っていたけど、これだけ多くの弟、妹ができたんだな。
僕とオジーさんもコーディ探しに参加した。サーディアンの子がリーダーとなり隈無く効率的に捜索が行われた。
「あったー! これでしょ?」
ひとりの子供が声をあげると、子供たちが集まった。
「うん、コーディだぁ!」とアモが声をあげると喜びの声が一斉にあがった。
「ユージちゃん! はい。これでナツミちゃん、助かるよね」
アモが差し出すコーディはただゆっくりと明滅を繰り返していた。嬉しそうなアモに、僕は返す言葉がなかった。ギルトが恐ろしいのだ。どんなことをしても勝てる気がしない。何の力もない……無能とまで言われた少年に、あの力の塊のようなギルトに何ができるというのだ。
「どうしたの? ねぇ、これでナツミちゃん帰ってくるよね」
まっすぐに見つめるその視線に僕は耐えられなかった。煮え切らない僕に、ついにアモは泣き出した。
「駄目なの! ユージちゃんが助けないと駄目なの! だって……だってナツミちゃん、いつだってユージちゃんを見てるんだものっ! アモと遊んでる時だって、いつでもユージちゃん探してるもの。だから……だから……」
気付かなかった……。その言葉は僕に大きな衝撃を与えた。こんな小さな子供にここまで言われたら、裏切ることはできない……けれど……。
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